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ブラトニック 3

終わった世界に戻るのは、また日常を繰り返すのは奇妙ではあったけど慣れる。 大体人間は思ってるよりも自分がしたことを記憶しているわけじゃない。 やたらとデジャブがおこる位で、まあ、世界が終わるまでの日常をオレほ心安らかに送っていた。 悩み? 悩みならある。 だがそれは世界が終わることじゃない。 それに関しては最初から受け入れているからだ。 仕事先に毎日黒塗りの高級セダンが洗車にやってくるのも悩みではない。 「なぁ、食事しようよ」 ホースで洗車しているオレの隣りでタレ目のヤクザが話しかけてくる。 「仕事のジャマなんで離れてくれません?」 オレは言う 流水で洗剤なしで洗って手がけワックス。 ものすごく高い洗車コースを3日ごとにしてくるのだ。 このヤクザは。 ガソリン入れるだけでは足りないらしい。 ヤクザだが、一応他の客と同じようにしてくる場合は断る理由もないから受け入れてるが、まあ、話しかけくるのがめんどくさい。 「そんなの適当でいいよ。帰ったらウチの若いのにさせるし」 ヤクザはオレと話に来てるのを隠そうともしない。 「仕事はマジメにすると決めてるんで。邪魔するなら警察よびますよ」 オレはそこはちゃんと言っておく。 「そんなに嫌わなくてもいいだろ?君のファンなだけだ」 ヤクザはわらう。 まあ、この笑顔が「悪い男」のモノで。 オレがゲイなら堕ちてしまいそうなんだが、残念ながらオレはセックスは男するのがいいけど、本来魅力は女の子に感じるので、何とも思わないんだよな。 悪い男は1人でたくさんだ。 「ヤクザとは関わらないんです。オレはプロボクサーですから」 しっかり言っとく。 かかわっていいことなんか何一つないのがヤクザだ。 良い人間はヤクザにならない。 「・・・そんなに嫌わなくても」 ため息をつかれるが知ったことじゃない。 「タイトルマッチとか興味ないの?長いことしてる割にまだ1度も挑戦出来てないだろ」 ヤクザはヤクザらしく、餌を持ち込んできた。 美味しい餌で釣って、食い尽くすのがヤクザなのだ。 「あなたの力は要らない」 オレは言い切る。 オレのタイトルマッチは永遠に来ない。 この世界が終わらなかったなら、オレは自力で日本チャンピオンにはなっただろう。 自惚れではなく。 でも、世界が終わる前には無理だ。 ヤクザの力を持ってしても、そこはそう簡単にはいかない。 そんなに簡単ではないのだ。 まあ、出来たとしても、それ以上のことを要求してくるのかヤクザなので、絶対に要らない。 大体、暴力団と付き合いのあったボクサーの末路は哀れなもんだ。 ヤクザの手下に成り下がる。 「・・・ツレないねえ」 ため息を突かれるが無視する。 洗車に車を持ち込む以外のことはして来ないから静観しているが、油断はしてない。 オレは顔か良いからストーカーになる女の子や男はちょこちょこいるのだ。 だがそこは絶対に希望を持たせるような真似はしないし、なんならすぐに警察に届けるようにしてる。 オレの公認のストーカーはアイツだけなのだ。 悪い男もストーカーも1人でいい。 「つれなくされたら欲しくなるんだよね」 ニコニコ言われるが無視。 セーム皮で水分をふきとって手がけワックスだ。 3日とたってないので、すぐにキレイになる。 「・・・君はとてもいい。ボクサーとしても、その姿も、その気性も」 囁かれるが、まともに聞かない。 もうちょっとでも近づいたたら通報する積もりだが、ちゃんと距離はとってくる。 だがコレは十分セクハラになるのでは、と思う。 付きまといだしね。 「店に客としてくるだけならいいだろ、じゃまもしてない見てるだけだし」 心を読んで懇願された。 まあいいか。 オレにはもう時間がない。 こんなヤクザに構っている暇はない。 とにかく、このヤクザもオレの悩みでもない。 オレは空気としてヤクザを扱いながら、心の中で起こる葛藤に耐えていた あれからひと月。 世界が終わってからひと月。 オレの最大の悩みはそんなモノではなかった。 セックスがしたい!!!! したくてたまらない!!!! こんな禁欲的な毎日はセックスを覚えてからは初めてで。 いや、試合前とかはあるよ? 減量とか疲労で肉体が限界だから、それはいい。 でも、こんなのない。 セックスがしたい。 好きな男としたい。 したいのだ。 実は毎日電話してくるし、週末には会ってる。 そうなった。 でもキスしかしてくんない。 しかも子供みたいなキスしか!!! オレはそれを考えたなら、耐えられなくなって、 奇声をあげてしまう 「なんでだよ!!!!なんでえ!!!」 隣りで何かつらつら語ってたヤクザが、驚いてビクッとしていたが、コイツは空気なので気にしない。 「どうしたんだ」 言われたけど、知らん、黙れ、お前なんか空気だ。 「空気って・・・酷いこと言うなぁ」 と言われたから口に出てしまったのか。 そんなこともどうでもよかった。 オレの今の最大の悩みは。 オレの好きな男がセックスしてこないことだった。 「なんでだよ!!!」 オレは叫びながらワックスで車を磨きあげ、ヤクザは流石にそんなオレにビビってた。 「君・・・大丈夫か?」 心配される。 大丈夫なわけがあるか!! オレは痛切に悩んでいた 世界の終わりの近くで。

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