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誘拐 2

「いや、さすがだね」 ヤクザは惚れ惚れとオレを見る。 オレは手足をしばられてベッドに横たえられていた。 ジム帰りの服のまま。 ホッとしたのはまだ裸にされてないということで。 少くともまだヤられちゃいないってことだ。 「麻酔銃まで使わなきゃいけなかったなんて。こちらは3人重症だよ。こまるね、普通の病院に連れていけないから高くつくだろ」 ヤクザは困ったように言ってるが、その目は笑っている。 楽しんでやがる。 見誤った。 オレが思っていたよりイカレてた。 ここまでのリスクをとるとは思ってなかった。 ジムからの帰り道に襲われた。 まあ、当然こちらも暴れた。 ボクサーを舐めないで頂きたい。 先人達には銃をもったギャングたち相手にほとんどを素手で仕留めたボクサーとか実際にいるからな。 まあ、最終的には撃たれて死んだけど。 叩きのめしてさっさと帰ろうとしたら、なんか衝撃があって、意識が無くなって。 麻酔銃だったのか。 「なかなか目を覚まさないから、量を間違えたかと思ったよ。熊とかに使うヤツだからね。量の調整は適当だったし。オレたちも麻酔銃てのは初めてで。でも凶暴さはクマなみだな」 なんだかヤクザは嬉しそうだった。 「あんたいいよ。最高だ。綺麗な顔して凶暴で、ヤクザの脅しにも屈しない・・・まあ、そこはわかってたんだ。そこが気に入って、オレはアンタに惚れ込んだ」 でもそこまで言って、突然ヤクザはオレを笑わずに見つめる。 不思議な目だった。 測ってる。 計ってる。 軽量し、測定し、分類してる。 「オレはこの【目】で生きてきた。目の前にいるヤツがどういうヤツなのかを見極めて。そこには自信がある。その判断で生命を張ってきたからな。だから、納得がいかないんだよ」 ヤクザはオレを覗きこむ。 明るい綺麗な茶色の目に、イカレたように開く瞳孔。 その向こうに、狂気のような執着と何一つ見逃したくないのだとわかる「欲」がある。 オレに対する執着だけど、それはたんなる欲望だけじゃない。 これは狂った科学者とかが研究対象にみせるようなモノだ。 単なる欲望以外に欲しいモノ、オレの秘密をコイツが嗅ぎつけたのだとわかった。 誰にも言わない、言うつもりもない、そして、言えるはずもないことを、このヤクザだけは見つけ出していた。 「アンタ何か隠してるね?」 ヤクザはオレに言ったのだった。

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