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誘拐 6

オレは下をみないようにする。 ベランダのフェンスからオレはぶら下がっていた。 おおっ、これは怖い。 下から吹き上げてくる風を冷気のように感じた。 高さが恐怖がそう体感させてんだ、と分かった。 腕二本でぶらさがっているので、あしもとに当然空間しかなく、それはとてつもなく高い。 車道に落ちたらグシャリと潰れることは間違いない。 オレはそれでも身体をブランコのように揺らした。 下の階の、部屋のベランダに飛び込むしかない。 隣りの部屋に逃げるのも考えたが、それじゃすぐに捕まると判断した。 行くなら下だ。 下に向かって飛び降りただけなら入れない、下の階のベランダに行く。 そこの住人に助けを求めるか、それともそこから逃げ出すかはまた決めよう。 身体を振って、その反動で飛び込むつもりだ。 十分とはいえないスペースしかないがするしかない。 失敗したらトマトになる。 朝の光が差し込むアスファルトの上に潰れて。 だがやらなきゃ、クスリでラリってヤクザにヤラれるわけだ やるしかない。 1 2 3 オレは勢いをつけて輝を離し、空中に飛び出した。 ふわりと浮き上がり 下の階のベランダのフェンスとの隙間に潜り込み、 当然のように窓に叩きつけられた。 「うげぇ!!」 オレは思い切り窓に投げられたカエルのように喚いた。 いや、ホントに窓に叩きつけられたカエルだった。 オレは窓にベシャリと叩きつけられていたからだ。 部屋の中で禿げた頭のオッサンが、綺麗に化粧したままの若い女の子とカーテンを開けたままでやっていた。 割れないのは強化ガラスなんだろう、いいマンションだな、とオレは思った。 良かった。 でなけりゃ、オレはガラスをぶち破り血まみれになりながらやってるの2人のベットに飛び乗ることになってただろうからだ 眼球が飛び出るほど見開いた目でオレを見つめる部屋の中の2人をみながら。 オレはズリズリと張り付いた窓からずり落ちていく。 中の2人に手を振りながら。 友好的に。 ここまで来たらもう警察署沙汰にしても良いかな、と思ったが、試合が来月なのでまだちょっと抵抗があった。 まだ警察はよばれたくなかった。 だが、あのヤクザはヤバいしな。 考えないとな。 後半年をできるだけ問題なく過ごすためにはどうすればいいか。 とにかく、まずはこのマンションから出ることだ。 固まってるのはオッサンの方で、若い女の方はすぐに冷静になってた。 それ程セックスにも夢中になってなかったのは直ぐにわかる。 綺麗な若い女の子と、オッサンの組み合わせだしな。 跨っていたオッサンから淡々と女の子は降りてきた。 素っ裸でオレをガラス越しに見下ろす。 オレは腹や顔を強く打ったので、動けないまま、ベランダに崩れ落ち、女をガラス越しに見上げる。 オレは顔の良さを自覚しながら、笑顔を女に向けた。 助けてよ、と言う意味でまだ手を振りながら。 女は呆れたように、小さく笑った。 叫んだりする代わりに窓を開けてくれたから、オレはヨロヨロと立ち上がり、部屋に入った。 上の部屋で男達が怒鳴るのが聞こえ始めた。 逃げたのに気付いたか。 でも、真下の部屋に逃げたとは思わないだろ。 飛び込めるとは考えないだろう。 隣りの部屋とかをまずさがすはずだ。 上の部屋の騒ぎを聞いて女は黙って部屋のドアを指さした。 逃げろということか。 「ありがと」 オレは女に心から礼を言う。 女はニコリと笑った。 裸のままで。 「お店に来てね」 女は言った。 まくら元のバックから札と名刺を取り出し、固まってる男の前で渡してくれた。 オレの価値が分かるいい女だな、と思った。 「必ず、行くよ」 礼と金を返しに。 オレは言った。 女はまた笑った。 オレはじゃあ、とまたまた手を振って。 走って玄関に向かう。 とにかく、このマンションをでなければ。

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