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誘拐 8

階段からの出口のドアをノブを足で蹴り開ける。 と、同時に軽くバックステップする。 ほら、オレを捕まえようと男達が2人飛び込んでくる。 先頭の1人が飛び込んだまま身体のバランスをくずして居るところを拳て顎を撃ち抜く。 これで1人。 その後から来たもう1人はオレに撃ち抜かれた男が倒れてきたので、よろめいていた。 その横をすり抜ける。 優れたボクサーは人に捕まる前にすり抜けられる。 それがボクシングだからな。 殴るのだけがボクシングじゃないぞ。 オレは非常口から飛び出したが、ホールには4、いや、5人ヤクザがいた。 人数と位置を瞬時に確認した。 ソイツらがオレを驚愕の目で見てる。 出口から瞬間で倒して出てくるとは思ってなかったんだろう。 あのヤクザオレを捕まえるためだけに何人つかってんの。 その執着を考えて正直ゾッとした。 非常階段からも降りてくる音と、倒さなかった1人がこちらに向かってくるのが見えた。 目指す出口はスイッチに触れないと開けれないガラスの自動ドアだ。 外からはキーがないとあかないヤツだろう。 スイッチに触れて開けて出るまで、大人しくそれを許してくれるとは思わない。 突破するしかない。 オレは覚悟した。 階段から降りてくる連中が来る前に。 コイツらをノして出る 拳は固めて、身体の力を抜いた。 呼吸を整え、華麗に踊る準備を1呼吸でする。 いくぞ!! オレがソイツらに向かって飛び込もうとした瞬間だった。 ぐわしゃん がきゃん 硬いモノがガラスにぶつかる音と、ガラスが粉々に飛び散る音と。 とがん どぐぁん 壁に思いきりぶちあたる音と、 床に重いモノが落ちる音がした。 コロンコロン 軽い音を立ててバイクのサイドミラーが転がっていく。 そう、ホールの壁にぶち当たって転がっているのはバイクだった。 小型ではあったけどバイクはバイクだ。 それがエントランスホールのガラスを突き破って飛んできのた。 もちろん、誰も乗ってない。 だが、宙をとんできたのは、オレもヤクザ達も見ていた。 突然エントランスホールのガラスのドアをバイクが飛んできてぶち割ったのだ。 運転したバイクが突っ込んできたのではなく、まるで子供が投げつけたおもちゃみたいに。 どうゆうこと。 投げつけられたみたいって。 嘘でしょ。 嘘だと言って。 でも嘘じゃなかったし、オレもヤクザ達もあんぐり口を開けてそれを見た。 砕けちったガラスのドアから、絶対今ここに来てたらいけないヤツが立っていた。 憤怒の鬼が。 怒りで血が上がってどす黒い顔に、本当に怒りで髪が逆立つことを証明し、犬歯を剥き出しにし、見開かれた目は充血ギラギラと光っていた。 ぐおぉおっ ぐおぉおっ 獣みたいに吠えて、その重低音の振動が鼓膜どころか身体を揺らした。 ひいっ ヤクザ達から声がもれた。 オレだって叫びかけたぞ。 オレの恋人だと分かってはいても。 マジ化け物。 ヤクザ達と格闘家のオレが立ちすくむほどの、圧倒的な気。 格が違った。 オレでさえ。 「返せぇ!!!!!」 アイツは人語で怒鳴ったが、それは言葉じゃなくて、意志としてそこにいた全員に届いた。 アイツはオレを見た。 それは恋人をとりかえしにきた男の目よりも、まさに逆鱗にふれた龍の目といった感じだったんだけど。 その目に射抜かれたなら、もうどうしようもなかった。 動けなかった。 「化け物」 誰かが言った。 まちがいない。 圧倒的に強い。 立ち尽くすオレを焦れたようにアイツが駆け寄り抱きしめる。 「僕のだ!!」 そう叫ばれた。 喰われるかと思った。 でも、震えていたから。 オレはそれで。 「ごめん」 と謝った。 そのままオレを抱えて、ぶち破ったドアから出ていくアイツを誰も止めなかった。 止めれられるはずもなかった。 テレビなんかでみていたアイツの強さなど、その一部でしかなかったことをその場にいた全員が思い知っただろう。 オレも大人しく抱かれて出ていくの許した。 だって。 オレを抱きしめてからはアイツが泣いていたからだった。

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