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統合 1

鬼のような形相は消え去り、まだ夜明けの道路へオレを横抱きにして歩くアイツは、ポロポロ泣く子供の顔をしていた。 怖かったと泣く子供の顔だから。 オレは下ろせとも、なんで来たんだ、いや、どうして居場所がわかった、とも言えなかった。 「泣くなよ・・・」 オレは困ったように言った。 それしか言葉かで無かった。 でもアイツは泣き止まない。 オレを抱えてあるき続ける。 オレはため息をついた。 そして見上げた。 やはり、マンションのベランダからあのヤクザがオレとアイツを見下ろしていた。 離れているずなのに苦笑しているのがわかったから、中指を立ててやった。 ヤクザについては考えておく。 しっかり考えておく。 後半年、大人しくさせておかないと。 その後はどうせ全員死ぬんだから。 とにかく、ぽたぽた涙が落ちてくるのに困った。 泣かせたかったわけじゃない。 助けにくるのも想定外だった。 今日は元々アイツはオレの家には来ないはずだったんだ。 オレの試合も近いから遅くに来てオレが休めなくなるのは嫌だという、コイツにしてはものすごく健気な理由で。 だから電話もしてこなかっただろうし。 どうやって誘拐を知った? どうやって居場所がわかった? 謎だらけだったが、とにかく泣かれて。 オレはなんだか苦しくて。 本当はこんな抱かれて歩いているようなのは。 コイツの立場を考えたなら。 騒ぎになるのはめんどくさい。 後半年を心穏やかにすごしたいのに。 「怖かった」 アイツが泣く。 「あなたがいなくなったら。僕は耐えられない。あなたがどんなに僕が忘れた僕を本当は愛していてもそれはいい、僕はもうあなたを忘れて生きていた頃にも戻れないし、あなたと出会う前にも戻れない。そしてあなたがいない世界ならもう生きない」 苦痛のような声で言われて。 「生きない」と言われて。 アイツが忘れた時間のアイツを愛していることも見透かされて。 胸が詰まった。 「確かにあなたを忘れれてた。でも、僕だってずっと愛してました。今のあなたを愛してるのは、つまりあなたがいるここまでの時間も愛してるのと同じでしょう!!」 アイツの声は大きくはないけど、どんな叫びよりも突き刺さった。 自分を見ろ、と。 今ここにいる自分を見ろ、と。 恥ずかしげもなく泣きじゃくりながら、大人の男が懇願していた。 ああ。 オレは。 オレは。 オレは自分の中で扉を閉じていく。 コイツの知らない、コイツが忘れた時間の、愛しい愛しい高校生のコイツ。 そこへ通じていたドアを今閉じた。 ああ、愛していた。 誰よりも。 そう思いながら。 そして、世界が終わった時間で、オレを忘れて死んだアイツへの心のドアを閉じた。 あの時の世界の終わりの、最期の想いはお前だけのものだ。 オレはを忘れていてもお前を愛していたよ。 ドアは閉じた。 もう空いてるドアは1つだった。 オレは。 ポロポロ泣くオレの恋人の涙を拭った。 愛しい愛しい恋人だ。 共に死ぬのはお前だけだ。 もうお前だけだよ。 ごめん。 ごめんな。 「オレが探し見つけたのはお前だけだ」 その言葉に全てをこめた。 探しに来たんだ。 お前を。 世界の終わりから。 抱き上げられたまま腕をアイツの首に回してキスをした。 夜明けの街には、少し人が歩き始めていたけれど気にしなかった。 それは。 約束のようなキスだった。 この男と死ぬ。 この男と世界の終わりに立つ。 それはもう喜びでしかなかった。 唇が離れた後、オレは笑ってしまった。 アイツが変な顔をしていたからだ。 驚きなのか、喜びなのか、堪えているのか、笑っているのか。 それ、どんな感情? 笑えた。 大笑いをしているオレを抱えたまま、アイツは今度は真っ赤な顔をして歩きだす。 照れてる? 何それ。 余計笑えた。 だが気になっていたことをやっと聞く。 「なんでオレの居場所がわかった?」 ここは聞いておかないといけないことだ。 「それはGPS・・・」 笑顔でアイツが答えたので、オレは瞬間でアイツの顎に肘を入れた。 流石に決まってグラグラしたが、倒れなかったし、オレを落とさなかったことは褒めてやる。 「GPSだぁ!!!」 オレは怒鳴り、アイツの腕から身体を引き離して、地面に降り立つ。 ストーカーはヤクザだけじゃなかった。 ヤクザよりとんでもないのがいた。 コイツオレのどこかにGPS仕込んでやがった!!!! どこにだ!! 「いや、その、あのですね」 なにか言い始めたが、ほっといてオレはスタスタ歩きだす。 「違うんです!!」 泣き声が聞こえたが、知らん。 ムカついてムカついてムカついて。 でも。 結局許してしまうだろうから、今は絶対許さないと決めた。 愛しくて。 だからたまらなくムカついていて。 愛しくて。 一番どうかしてるのはヤクザでもコイツでもなく。 オレなのだ。

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