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第1話-10

「ネオン大丈夫かな?」 「まぁ、多分ね…体より心の方が心配かな?あんな扱いされたんだし」 「そうだよな」 吸血鬼の中でも上位クラスのαだと、Ωは手足も出ないのは当然なことであって、このままだと袮音が奏に喰い尽くされてしまうのではないかと2人は心配していた。 だが、奏が行為を止めてくれたお陰で、とりあえずその場を凌げたのは良かったと安心する。 「でも俺たち…ソウちゃんに刃向かったからさ」 「分かってるよ。でも、袮音がダメになるよりいいじゃん。あぁ、奏くん怒ってるかな?」 仕方無い。 お仕置きは、慣れてるしね…… 淕と燐は昔、生い茂った森の大木の根元に(うずくま)って弱っている所に、悪質な奴らに拾われた。 吸血鬼の世界では、生まれてすぐバース検査があり、2人はα同士の間に出来たΩ。 普通なら有り得ないことだが、極稀な特別変異によってΩが生まれることもある。 それを嫌悪した両親は、存在を毛嫌いし蔑んだ目で2人を見るようになった。 母親の酷く睨む姿と、暴力を振るうようなった父親と浴びせられる罵声は日に日に激しくなり、2人は自然と両親から距離を取りだす。 程なくして、拾われた奴らからは安心するような言葉を掛けられ、罠に嵌ってしまう。 淕は既に発情期が来ていて、αの餌食にされることが多く、燐は発情期が来ていなかったため、淕が嘘をつきβと偽って過ごしていた。 『…リク、大丈夫?』 『平気だよ。嫌な思いをするのは、もう1人で十分だ』 宛もなく並んで歩き、辿り着いたのはとても大きなアーチ型の橋。寒い季節だったのは、今でも覚えている。 「それよりさ。何で俺たち、Ωだったんだろうなー」 「うぅん、それは分からないよ。αだったら…って何度も思ったし」 「うん、確かに。でも…リクが居てくれたから俺、こうして今ココに居るし♪」 人間と同じように吸血鬼の中でもカースト制度が自然と出来ていて、虐げられる者はΩ、頂点を目指していける者がα、どちらでもなく平凡と暮らしていけるのがβ。 ただ唯一、人間と違うのはΩの発情期(ヴァンプ)の周期。 吸血鬼は1ヶ月に1週間。早いサイクルでやってくる為、体への負担は人間の倍ほど。 抑制剤などはこれと言って無いため、発情期が来たらフェロモンに誘われてくる誰かも分からないα相手に行為をする。 そうしなければ、気が狂ってしまうほどの性欲が暴走して自傷行為をしてしまうくらい吸血鬼Ωの発情期は凄まじい。 それにより、自害する同類も少なくない。 一方のαは人間とほぼ同じで、α専用の抑制剤が何種類かあり、通常の物から効果が強めの物など段階的に分かれている。 優遇されるのはαと決まっているのはどの生態でもあるが、吸血鬼が突出するようにαとΩの差が激しい。 燐と淕がΩ性を憎んでいたのは少し前のこと。 あの橋を渡って、奏の姿を見ていなければ消えていたかもしれないのは事実であって、2人にとって特別な存在になった。 だから、言えることは直接本人に言いたいし聞きたい。 袮音のことも… そのうち、詳しく話してくれるかな……… 「袮音が起きるまで、様子見ていよう」 「そうだね。でもショック受けなきゃいいな…」 第1話 了。

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