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第3話-1

翌朝。 スッキリとした目覚めで、昨日のあの発情期は何処にいったのだろうと思える程、(すこぶ)る体調が良い。 これがΩ特有の体質なんだと、改めて気付かされた部分もあった。 でも…それ以外に気になっていたことがある。 性奴隷の末裔 これは、前にも奏が言っていたような気がしてならない。 嘘を付くような性格でも無いはずだが、体の内側から沸々と欲望が溢れ出していくのが分かって、自我を保てなくなってしまうのではないかと袮音は不安になった。 「おはようございます、袮音くん。昨日の…体調はどうですか?」 朝食を食べにリビングルームに行くと、伊織が心配そうに声を掛けてきた。 見た目は全く変わらないが、内面の部分でどれだけダメージを受けてしまったのか見当も付かなかったため、昨日の出来事になるべく触れないよう努めることにした。 「おはようございます、伊織さん。体調は良いですよ、何かスッキリした気分です。みんな発情期の時は大変なんですね」 アハハと苦笑いする袮音に、君は特別じゃない。と(なだ)めるように多少の会話をして、いつもように飲み物を用意する。 こういう時の朝は、紅茶やコーヒーではなくハーブティーを淹れ、更に気分を良くしてもらおうと香りの良い物をチョイス。 「今日は、カモミールティーを用意しましたよ。リラックス効果があるので是非」 色や香りで堪能出来るハーブティーは、何種類もあり、効能や効果も種類によってそれぞれで伊織は奏の体調を見つつ、コーヒー以外にハーブティーを出すこともある。 「スー、ハァ。良い香り…」 ティーカップを両手で持ち、鼻から香りを嗅ぎ口で息を吐く。 深く呼吸をするだけでも落ち着かせることもあるが、更に香りで脳まで安らかになる感覚。 「頂きます」 「どうぞ。…あ、おはようございます奏様」 袮音がカモミールティーを飲むと同時に、奏がリビングへとやってきた。 すぐさま、伊織が座る席の椅子を引き、主を迎える。 「今日はいつもより早起きだな、袮音」 「おはようございます。そうですか?目覚めが良くて、そのまま起きました」 朝7時前。 休日の割には早い起床かもしれない。普段と変わらない時間に起きるのは、久しぶりだ。 「そうだ。朝食を終えたら、ドライブにでも行くか?」 「え?いいんですか?」 奏からの誘いに少し驚きながらも[はい]と返事をする。 滅多にこういうことが無いので戸惑いはしたものの、折角の誘いを断ることは無い。 横で話を聞いていた伊織が、車を出すと言ったが自ら運転をするから良いと、敢えて2人でドライブをすることを選んだ奏。 「たまには、お前もゆっくり過ごしても良いだろ?伊織。どうだ?」 「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてドライブの間だけ自由にさせてもらいますね」 袮音が(もたら)すフェロモンによって、奏にほんの些細な変化が現れ出したのは、近くにいた伊織が一番感じていることだった。 この2人が運命の番なのかも知れないと微かに思ったのは、主従関係やバース性など関係無く、袮音を見つめている視線が熱を帯びているように映ったから。 あの時、ガゼボでの出来事で(うなじ)を噛まなかったのは何故だろう―――― まだ時期では無いと思ったのか、それともこのまま主人と奴隷の関係を続けたいのか… 何かが引っ掛かる―― このまま、嫌なことが起こらないことを願う伊織だった。

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