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第2話 階段
そんな風に一人、思い出し笑いをしながら須藤と階段を降りる。それが良くなかった。
ユニバーサルデザインなんて言葉のない時代の遺物なわけで、階段はかなり斜傾がきつい。しかも長いわりに窓一つなく、かなり暗い。夜には二階廊下の電気が灯 くから昼間の方がより暗い。点消灯は自動なので、前から婆ちゃんに昼間も電気を灯けるよう言おうと思っていたんだ。
──足を滑らせあっ、と思うまでにそれだけの事を考えた。
随分のんきなようだが本当に一瞬だ。
足元に何も感じない浮遊感に『ダメだこれは落ちる』と諦めたとき、物凄い力で後ろから胴へ巻き付いた腕に引き寄せられた。
「……新太 君、大丈夫?」
息ひとつ切らさずに左手だけで軽々と須藤が僕を抱きかかえている。
樹の幹みたいに硬い腕にしがみついて僕は人心地が付く。
少し遅れて体中から冷たい汗が出た。
「こわ……びっくりした」
怖かった。とは格好が悪くて言えずに言い直す。
「びっくりしたのはこっちだよ……心臓が止まるかと思った」
聞こえないフリをしてくれたのか、須藤の腕がゆっくり離れていく。
「ごめんね。ありがとう須藤さん」
「……ひとりの時は……落ちるなよ」
何人いようが落ちたくて落ちるつもりはないが、聞きようによっては須藤が居る時は落ちても良いように聞こえる。絶対に救けてくれるということだろうか。
まさかそんな都合のいい解釈──。
そう思って須藤の顔を見るも、相変わらず髪とメガネで何を考えているのか分からない。
「ありがとね須藤さん」
なんとなく僕はもう一度お礼を言った。
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