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第3話 怪談

薄暗い階段から陽射しの照りつける外に出た途端、まばゆい濃淡の差に目が痛くなる。毎度のことながら目をしぱしぱさせていると、子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。 「ユーレイ荘から人が出てきたー!」 「ホントだユーレイなんじゃねー」 「やべぇ、こっち見た!」 「逃げろー」 夏休みの小学生のようだ。 いやいや、所詮お子様にはこの情緒あふれる建築美の価値は分かりますまい。 振り返り、月光荘を仰いで失笑が漏れた。 蔦が絡んでひび割れた壁に先の見えない階段。錆びた門扉。 ──僕でもユーレイ荘と呼びたい。お化け屋敷でもいい。 だけど住めば都だ。階段は不便だが他は満足している。そう、あのことも。 笑いながら僕は須藤に言った。 「ほんとに出るんですよ。幽霊」 信じてはいないが遭遇はしている。 「……うそ」 「本当。声しか聞いたことないけど」 姿は見ていない。だから半分信じて半分信じていない。 「どんな……声?」 「んーとね、低いうめき声。お経あげてるみたいな。たまーにね。聞こえたこと、ないですか」 「うん……ないな」 「まあ、あれじゃ居てもおかしくないもんなぁ。須藤さんそういうの苦手?」 「……別に、平気」 僕はまた笑った。幽霊を怖がる須藤など連想できなかった。 それより夜道で不意に出遭う須藤の方がよっぽど怖いだろう、と失礼な想像をする。 笑いが(こら)え切れない。 「新太(あらた)君は、本当に……よく笑うな……」 『須藤さんで失敬なことを考えてました』とは言えない。 「そんなの言われた事ないです。須藤さんと一緒に居るときだけですよ多分」 「俺と……居る、トキ、ダケ……?」 緊張がMAXになったのか、須藤がカタコトになってしまった。 「──ぷふっ──はい」 悪いと思いながらも吹き出してしまう。 こんなもじゃもじゃでモッサリした、年上の大男が純粋(ピュア)すぎて可愛くみえる。 だからやっぱり須藤といる時だけだろう。僕がこんなに笑うのは。 ──その日の深夜。どう考えても気味の悪い読経のような、幽霊の声をまた聞いた。

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