3 / 5
第3話 怪談
薄暗い階段から陽射しの照りつける外に出た途端、まばゆい濃淡の差に目が痛くなる。毎度のことながら目をしぱしぱさせていると、子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。
「ユーレイ荘から人が出てきたー!」
「ホントだユーレイなんじゃねー」
「やべぇ、こっち見た!」
「逃げろー」
夏休みの小学生のようだ。
いやいや、所詮お子様にはこの情緒あふれる建築美の価値は分かりますまい。
振り返り、月光荘を仰いで失笑が漏れた。
蔦が絡んでひび割れた壁に先の見えない階段。錆びた門扉。
──僕でもユーレイ荘と呼びたい。お化け屋敷でもいい。
だけど住めば都だ。階段は不便だが他は満足している。そう、あのことも。
笑いながら僕は須藤に言った。
「ほんとに出るんですよ。幽霊」
信じてはいないが遭遇はしている。
「……うそ」
「本当。声しか聞いたことないけど」
姿は見ていない。だから半分信じて半分信じていない。
「どんな……声?」
「んーとね、低いうめき声。お経あげてるみたいな。たまーにね。聞こえたこと、ないですか」
「うん……ないな」
「まあ、あれじゃ居てもおかしくないもんなぁ。須藤さんそういうの苦手?」
「……別に、平気」
僕はまた笑った。幽霊を怖がる須藤など連想できなかった。
それより夜道で不意に出遭う須藤の方がよっぽど怖いだろう、と失礼な想像をする。
笑いが堪 え切れない。
「新太 君は、本当に……よく笑うな……」
『須藤さんで失敬なことを考えてました』とは言えない。
「そんなの言われた事ないです。須藤さんと一緒に居るときだけですよ多分」
「俺と……居る、トキ、ダケ……?」
緊張がMAXになったのか、須藤がカタコトになってしまった。
「──ぷふっ──はい」
悪いと思いながらも吹き出してしまう。
こんなもじゃもじゃでモッサリした、年上の大男が純粋 すぎて可愛くみえる。
だからやっぱり須藤といる時だけだろう。僕がこんなに笑うのは。
──その日の深夜。どう考えても気味の悪い読経のような、幽霊の声をまた聞いた。
ともだちにシェアしよう!