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第13話

「定期的に僕にキスをしろ。魔力の供給を行うんだ。たまらなく眠たい。耐えられない。うまく思考することができないなんて死んだも同然だ」 「……定期的に?」 「そう、できれば深い……もの……」  またしても落ちていくまぶたに、魔王は慌てていた。  深いもの、と勇者は言った。つまりそれは、そういうことだ。口を開いて舌を絡めるアレである。 「それしか方法はないのか! おい勇者!」  きっと勇者は「封じられそうな魔力を大量に供給すれば起きたままでいられる」と言いたかったのだろう。そんなことは魔王にも分かった。今この状況で小人たちの異変に気付いた勇者を失えばどうなるのかも、なんとなくは予想がつく。きっと小人たちの餌食にされて終わりだ。勇者の頭脳で切り抜けなければ、人間界に疎い魔王なんて簡単に騙されてしまうだろう。 「……くそ!」  自身の揺れる感情にも今は気を向けられないまま、魔王はもう一度唇を重ねた。しかしすぐには離れない。頬に添えた手で勇者の口を軽く開くと、そこからぬるりと舌を忍ばせる。  勇者は動かない。けれど魔王は諦めず、口腔を味わうように舐め尽くす。 「ん……ふ」  勇者の声が聞こえたのは、数秒後だった。  微かに目が開いていた。それに気付いてすぐ、魔王は少しばかり距離を開く。 「起きたのか!」 「ああ。すごいな、さすがは魔王の魔力だ。だいぶ楽になった」  へらっと呑気に笑う勇者を、魔王は思わず抱きしめる。あまりにも突然な出来事すぎて、正常な判断もできなかった。 「……ふふ。これではまるで、僕が眠り姫だな。王子様はずいぶん心配性みたいだ」  揶揄うような声が腕の中から聞こえて我に返ると、魔王はすぐに勇者を落とした。下ろしたのではない。パッと手を離したために、勇者は思いきり床に後頭部を打ち付けた。 「いっ! おいお前! 仮にも僕は病み上がりだぞ!」 「やかましい! ふざけたことを言っていないで早くここから出るぞ!」  魔王の顔はどこか赤い。勇者が気付くわけもなく、二人して勢いよく立ち上がった。 「出る? 馬鹿を言うな。こんな状態になったんだ。やられてばかりでは気が済まないな」 「そんなことを言っている場合か。俺様たちは明らかに狙われたんだぞ」 「いいか、魔王。精霊とは美しいようでいて、悪戯が好きなんだ。そして身勝手で、気に入った人間を殺して連れていくような、そんな無邪気さもある」 「それがどうした」 「小人たちも半分は精霊なんだ。そういう無邪気で身勝手な性質があっても不思議じゃない。だけど、それで許せるかは話が違うだろ? ……反撃だ。僕をこんな体質にしたことを後悔させるまでは、僕は引かないぞ」  つまるところ、なんだかんだと言ってはみたが、勇者の負けず嫌いからここからは出て行きたくないらしい。 「まあそううんざりするな、魔王よ。お前だって今後僕にキスし続けることになるんだぞ、その期間は短いほうがいいんじゃないか?」 「……まさかその体質を治す手段は、」 「そう、魔封じを施した本人たちにしか分からない」  魔王は今度こそめまいがしてきそうだった。  勇者の封じられた魔力を解放するまでは、あるいは勇者の体から魔力が抜けるまでは、勇者は魔王のキスがなければ起き続けていられないということだ。それも、触れただけのキスでは起きていた時間が短かったから、毎回深いものをすることになる。 「……本当に、貴様と居るとろくなことがない……!」 「喜ぶなよ、照れるじゃないか」 「褒めてないだろうが!」  勇者はいつもそうだ。静かに暮らしていたはずの魔王を、厄介ごとにばかり巻き込む。そして結局解決するのは魔王なのだ。 「まずは起きていられる時間を計測しながら、今日はあの眠っている男を調べようか」 「呑気だな」 「まあいいじゃないか。何かあっても、どうせお前がどうにかしてくれる」  ――本当にどこまでも、勇者は無防備だ。魔王はそんなことを改めて思いながら、それでも何も言い返すことができなかった。  

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