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第14話

 今回魔封じが施されていたことは小人たちに詰め寄るのか、と聞いた魔王に、勇者は否と返した。気付かないフリをしていなければ、小人たちが表立って牙を剥く可能性がある。魔王が魔力をすべて持っている状態ならまだしも、今は半分は勇者にあり、さらに勇者がまだうまく使いこなせないことを考えれば、一応精霊でもある小人に襲われるのは避けたい現実である。 「貴様がトンチキな魔術を使わなければこんなことになっていなかったがな」 「分からんぞ? 僕たちを貶めようとしている誰かは、こうなることも計算済みで……」  不自然に言葉を切った勇者は、途端に真剣な表情を浮かべる。 「どうした」  顎に手を当てて、何かを考えているようだった。しかしすぐに「いや」と曖昧に呟くと、勇者はニヤリと笑う。 「とにかく、今の状況を打破しようじゃないか。今現在で魔王にキスをされてから十五分、まだまだ眠くなる気配はない」 「……俺様はまた貴様にアレをするのか……」 「当たり前だ。美しい僕にキスが出来ること、誇りに思えよ」  勇者はそう言って胸を張ると、気さくに魔王の肩を叩いていた。  その後すぐに小人たちと合流したが、小人たちの様子は変わらなかった。しかし魔王のことをチラチラと気にしていたから、魔封じが効かなかったと思って焦っているのだろう。もしかしたら、魔王相手なために予想の範囲内だったのかもしれない。 「こっち、眠り姫、こっち」 「早く、早く」  やはり小人たちは急かすように魔王を引っ張っていく。勇者はあくまでもおまけなのか、小人たちは魔王ばかりを気にかけていた。  それも、あの眠っていた男が鍵になるのだろう。これは早めに解決してふざけた真似をしてくれた小人たちに一泡吹かせなければ……そんなことを思っていた勇者の体が、突然ふらりと傾いた。  探究心の強い勇者はしっかりと時計を確認する。ちょうど、最後のキスから三十分が過ぎた頃だった。 「お、い! 貴様まさか、」 「……その、まさかだ」  勇者の隣を歩いていた魔王が、倒れそうになった勇者を支える。  小人たちは不思議そうに勇者を見つめていた。魔王を引っ張り、早く行こうと急かしている。  ここでキスをするのか。魔王は躊躇いながら勇者を見るが、勇者は静かに目を閉じて動かない。そういえば、このまま放置すればどうなるのかを聞いていない。もしやこのまま心臓が止まり、二度と目を開けないことになるのではないか。そう思うと同時、魔王の中から躊躇いが一気に消え去った。  膝をついて、勇者の上体を抱き上げる。そうしてすぐに唇を近づけた。  小人たちは慌てたように目元を隠していた。隙間からはしっかりと見えているが、魔王は構ってもいられない。  すぐに勇者の唇を割き、舌を差し込む。唾液を注いで、口内を探った。 (……熱い)  まるでかぶりつくように角度を変え、途中からは魔力を注ぐということも分からなくなっていた。  ただその内側を味わい、隅々まで犯す。 「……ん、ぅ」  ぬるりと、勇者の舌が動いた。  それにすぐに我に返った魔王は、弾かれたように勇者を放り出した。 「いっ! たいな! お前は何回僕を投げる気なんだ!」 「やかましい! 起きたのなら起きろ!」 「意味が分からない!」  真っ赤になった魔王はすぐに、勇者に背を向ける。  勇者はふたたび時計を確認して、呑気なことに忘れないようにとメモを残していた。

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