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第18話
魔王の胸中には焦りしかなかった。力が半分しかないからではない。ただでさえ勇者は、魔封じが施されている面倒くさい体質になっている。魔王の魔力供給を断ち続ければどうなるのかがまだ分かっていないのだ。
もしかしたらスレイグが勇者に先ほどのようにキスをして、そこから魔力を得るのかもしれないが――そんなことを考えてしまえば、自然と魔王の眉が寄る。
いったい何が面白くないのか、魔王にもよく分からない。しかしスレイグが勇者にキスをするのかと思うだけで到底明るい気分にはなれなかった。
(……どこに行ったんだ)
ダンタリオンの住処など、魔王は知らない。そのため追いかけることもできず、ひとまず魔王は服を着て、事情を聞くべく小人の元へと急いだ。
「あ! あ! 魔王様!」
「魔王様だ!」
小人たちが現れた魔王を見て嬉しそうに集まった。
――微かにあった違和感が、魔王の中で唐突に繋がる。
やはりダンタリオンに操られていたから、彼らは魔王のことを「王子様」と呼んでいたのだ。そもそも、小人族が魔王のことを知らないわけがない。すっとぼけるなんて、すぐにバレそうな浅はかなことを選ぶはずもない。
(くそ。最初から気付いていればよかった)
いろいろなことが立て続けに起きていたために、そんなことを深掘りする余裕もなかった。勇者が最初から小人たちを怪しんでいたということもある。誰かが気にしてくれていると、思わず気も緩んでしまうものだ。
「貴様ら、眠り姫のことを覚えているか」
「眠り姫?」
「いない、いないね」
「どこ行ったの?」
魔王の問いかけに、小人たちがキョロキョロとあたりを見渡す。
「ついさっきまでここで寝ていた男のことだぞ」
魔王はとうとう焦れた様子で棺を強く指さした。しかし小人たちはきょとんとしたまま、誰も彼もが頭を横に振る。
「眠り姫は棺には居ないよ」
「そうだよ、そうだよ」
「眠り姫はもう起きたよ」
「引きこもりだから出てこないの」
「……引きこもり?」
また居ないね、本当だね、そんなことを言いながら、小人たちが一気に駆け出す。
そこで魔王はふと思い出した。
ダンタリオンが眠り姫のフリをしていたのなら、魔王たちが一晩寝たあの家はいったい誰のものだったのだろうか。
もしかしたら今、小人たちは本物の眠り姫のもとに向かっているのではないかと、魔王はすぐに小人たちを追いかけた。
本物を見つけたからといってどうにかなるわけでもない。ただ、ダンタリオンのことが少しでも分かればどこに行ったのかも見当がつくと思ったのだ。
やがて、見えてきたのはやはりあの家だった。質素なものだ。泊まったときのまま、何一つ変わりはない。
しかし。
小人たちが向かったのは、その家からうんと後ろにある大きな木の下である。そこにわらわらと集まると、小人たちが一気に木を揺らした。
「眠り姫、眠り姫」
「ぎゃあ! なんで分かったんだよ!」
ぐわんぐわんと揺れることに耐えられなかったのか、上から男が降ってきた。小人たちはそれを見事にキャッチすると、胴上げのように掲げて、すぐに魔王のもとに連れて来る。
真っ黒な髪は長めで、華奢で猫背が目立つやや野暮ったい男だった。その男は魔王に気付くと、一瞬びくりと震えたものの、すぐに暴れてどうにか地に足をつけた。
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