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第24話
「……勇者」
魔王の目が微かに細められた。それを見上げて、勇者の手も自然と伸びる。
魔王がふたたび手を動かす。勇者も、魔王のそこを丁寧に擦りあげていた。するとそれは手の内でぐんぐんと固くなっていき、その感覚を覚えるたびに勇者の快楽はさらに増していく。
(しまった、これだと、口が……)
片手しか使えなくなってもなお勇者が口を塞ごうとしたとき、魔王がそれを捕まえた。
「塞ぐな」
その手を木に押し付けられてはもうどうにもできない。勇者はただ快楽に耐えながら、必死に魔王の中心を擦る。
「ん、あっ、い、嫌だ、魔王、聞かないでくれ」
勇者が切なげに眉を寄せて、短い呼吸を繰り返す。体が跳ねる。瞳が誘う。真っ赤に膨れた亀頭が、限界を訴えている。それを見下ろして、魔王はぺろりと唇を湿らせた。
「ああ、勇者……口を」
魔王も限界が近かった。声音からそれが伝われば、勇者の胸もさらに騒ぎだす。
勇者が口を開くと、魔王が顔を寄せた。そうして唇が重なって、どちらともなく舌を差し出す。ぬるぬると表面を擦り合わせてすぐ、魔王の舌がずるりと奥に入り込んだ。
――そういえば、どうしてこうなったんだったか。
そんな疑問は、すでに何度も二人の頭には浮かんでいた。けれど次にはどうでも良くなって、今はこの快楽に耽っていたいと本能が叫ぶ。
きっと、魔王は相手が勇者でなければ、そして勇者は魔王でなければこうはならなかっただろう。そんなことも分かっていたけれど、だからこそそんな相手を前に止めることなんてできない。
「あっ、や、嫌だ、離してくれ、魔王、で、出る、」
「このままイけ」
「や……だ、ぁ」
「……俺様も、限界だ」
言いながら、互いの手は止まらなかった。
ぐちゅぐちゅと濡れた音を聞かせながら、溢れる蜜液を限界まで膨らんだ中心に激しく塗りつけていく。ふたたび触れ合った唇は噛み付くようなキスが繰り返されて、呼吸さえ奪われるようだった。
先に果てたのは勇者だった。魔王のキスに縋るように、背をしならせて腰を揺らす。魔王の手に白濁が散って、気付いた魔王は少し緩やかに、余韻を楽しむようにそこを擦る。
「ん、勇者、もう……」
そうして魔王も、勇者の手に吐精した。魔族は量が多いのか、その白濁は勇者の腿にまで飛び散った。滑らかな肌に乗った白が、どろりと伝う。熱い呼吸を吐き出しながらそんな光景を見下ろした魔王は、ふたたび熱を持ちそうになった体を自制するように、一度ふっと視線を外した。
「……洗うか」
「……そ、そうだな、うん」
二人はどこかギクシャクとしながら、湖で身を清める。
魔王がどこからか勇者の洋服を差し出した。それを受け取った勇者は、何も言わずに着用する。着慣れているはずのそれが、今はなぜか他人行儀にも思えた。
「……ダンタリオンの目的は何だったんだ」
気まずい空気を裂くように、魔王がポツリと言葉を落とす。
「ダンタリオン……あ! そうだ魔王! あいつは僕とお前を貶めようとしている人物を知っているようだった!」
「何? ……それに協力していたから、今回眠り姫とやらのフリをしていたのか」
「そうらしい」
しかし結局、スレイグは黒幕が誰なのかを言わずに消えた。最後の言葉から察するに、スレイグに協力を仰いだ男の元にでも行ったのかもしれない。
「僕が当事者だということも言っていた。……狙われたのは僕で、もしかしたらお前は巻き込まれただけなのかもしれないな」
「……まったく貴様は、厄介ごとばかりを引っ張ってくる」
「いいじゃないか、どうせお前はどうにでもできるんだから」
魔王がぐっと言葉を詰まらせたことにも気付かないまま、勇者はにっと笑ってみせた。
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