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第27話

         *  小人の案内もあり、勇者と魔王は早くに森を抜けることができた。  もちろん、キスをしながらの道中である。勇者は相変わらず、きっちり三十分おきに意識をなくす。小人はその原因について覚えていないらしく、特に触れることはなかった。けれど二人がキスをしているときは、気を遣ってかそっぽを向いていた。二人の雰囲気がなんだかピンクな気がして、最初は興味津々だった小人でも、途中からはいたたまれなくなってしまったのだ。  そんな小人を、勇者はひたすらこき使っていた。勇者は探究心の塊だ。自身が使い慣れている魔法陣を、今の状態でもなんとかうまく使いこなしたかった。けれど、半分魔王の魔力を所持している――つまり、半分だけ魔族になっている勇者に、精霊が力をかすことはやはりなかった。何度小人を利用してもダメで、勇者はあらゆる方法を探しては試したが、どれもが成功はしなかった。  それでも勇者は諦めていない様子だ。魔王はそんな勇者を見ながら、相変わらず呆れたようにため息ばかりを吐いていた。 「はー! 久しぶりの宿だー!」  そこにたどり着いて一番に、勇者がベッドに飛び込んだ。  街に入ってすぐの古びた宿屋である。二人は念のためフードを被り、冒険者を装って部屋を取ることに成功した。  小人はずいぶん前に眠っていた。抱えているのは魔王だった。 「あー……眠い」 「こら、風呂に入るぞ。ここには共有のところしかないらしいがまあ……おい聞いてるのか」  一つだけある椅子に小人を下ろしながら、魔王が語りかける。 「勇者、寝るな」 「ん……待て……時間……」 「時間?」 「キス……」  そういえば、そろそろ三十分になるのかもしれない。  魔王はベッドへと歩み寄ると、横たわる勇者の上体を抱き上げる。最初は緊張していたそれももう慣れたものだ。魔王は躊躇いなく顔を近づけて、勇者にキスを落とした。  この数日、一日に何度も何度もキスをしてきたのだ。魔王は動揺することもなく、勇者の口内を舌で探る。 「ふ……ぅ……」  本来なら味わう必要はない。それでも魔王は毎回、勇者の口腔を貪るように犯してしまう。  勇者の中はどうしようもなく熱いのだ。理性がぐらつくと、どうしても止められなくなる。慣れたとはいえ、その行為に慣れたというだけで、押し寄せる衝動にはまだまだ慣れてはいなかった。 「……ん……ま、ぉ……」  勇者の目が開く。そこで、魔王は唇を離す。 「目が覚めたか」 「……ああ、なんとか……」 「それなら早く風呂に行け。もう立てるだろう」  魔王が勇者の体を起こしてやると、勇者は大きなあくびを漏らしてベッドから降りた。そうして一度両手を伸ばすと、振り返ることもなく「じゃあお先に」と部屋から出て行く。  少々素っ気ないようにも思えた。けれど魔王はそれどころではなく、自身の下腹が膨らんでいるのを見下ろして、深いため息を吐き出した。  ―― 一方、外に出た勇者は、壁に背を押し付けてずるずると座り込む。 「なんで勃ってたんだ……」  一瞬だけ確かに、魔王の中心が勃起しているのが見えた。  勇者とキスをするのは魔王にとっては煩わしいことのはずである。それなのにどうして、まるで興奮しているかのようにそんな状態になっているのか。 (……僕もなんで、こんなに落ち着かなくなるんだよ)  魔王とは一度、いわゆる抜き合いをした。それから少し立て込んでいたために互いに何も言わないけれど、あのときの熱だけはよく覚えている。  今更何かを言うのもおかしな話だろう。そのため切り出すことはできないが、時間が生まれてしまうとどうしても意識をしてしまう。  勇者は数度、軽く頭を振る。そうして活を入れるように自身の頬を叩くと、頬を赤く染めたままで風呂へと向かった。

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