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第40話
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次の宿を見つけるまで、勇者はもたなかった。
手を繋いで数歩進むと、その体が突然ぐらりと傾く。慌てた魔王が勇者を支えて、結局勇者を背負って宿まで連れてきた。
フードをかぶっていたから、魔王も勇者もバレなかったようだ。部屋についてすぐ、勇者が着ていた薄手の外套を脱がせると、すぐにベッドに寝かせた。
「キス、キス、魔王様」
「分かっている」
小人は勇者とよく言い合いをしているが、倒れたらそれはそれで心配なのだろう。喧嘩するほど仲が良いとは、本当のことなのかもしれない。
魔王はすぐに、躊躇うことなく勇者に口付けた。口を開かせて、舌を差し込む。動かない者を好き勝手にするというのはなかなか気が引けるものだが、仕方がないだろうと言い訳をすれば興奮すら覚えるようだった。
逃げられるわけでもないのに頭を押さえてしまうのは保険だろうか。もしも今目が覚めたら、獣のように食らいつく魔王を見て勇者が逃げ出すかもしれない。それを危惧すれば、雄の本能からつい押さえつけるという行動を選んでしまう。
「んっ……」
勇者の指先が跳ねた。けれど目は閉じている。
(……様子が少し、おかしかったな)
勇者らしくない弱々しい表情で、もう終わらせたいと悲しく笑っていた。
――勇者は何かを隠している。それでは何を、とは思うけれど、考えても当然分からない。
魔王は勇者のことを何も知らない。勇者が語ろうとしないこともあるが、そもそも魔王だって聞いたことがなかった。
自分のことで精一杯だった。情けない言い訳をすると、それに尽きる。
「ふ……まお……」
薄らに勇者の目が開く。気付いてすぐ、魔王は唇を少しだけ離した。
「起きたか」
「……ああ……まだ、足りな……」
まどろむようにまぶたが落ちた。
長いまつ毛が影を生む。肌も白く艶やかで、髪の毛はすべてが毛先までさらさらだ。
改めて見ると、勇者が自負するだけはある。魔王はあまり美醜には興味がないのだが、それでも思わず見惚れてしまうほどだった。
途端に、キスをすることに緊張が走った。勇者を目覚めさせるためにも早くしなければならないのに、あと少しの距離が詰められない。
「……魔……王……」
勇者の声がとうとう途切れる。それを感じてようやく、魔王はそっと唇に触れた。
心臓が痛いほどに騒いでいた。熱がめぐり、もっと欲しいと貪欲な本能が顔を出す。
「……勇者……」
離れないようにとしっかり抱きしめて、深く口付ける。唾液が混ざることにも興奮を覚えてしまえば、さらに魔王は止まれない。
勇者が目を開けた。一瞬だけ驚いたように見開かれたそこは、すぐに静かに閉じていく。
勇者に拒む理由はない。むしろこのまま抱いてほしいとさえ思っていた。
舌が絡むと、魔王は勇者が起きていることに気がついた。けれど止められるわけもなく、むしろ角度を変えてキスが深くなる。
「ふ……ぅ、」
くぐもった勇者の声が、直接魔王に流れ込んだ。その感覚もまたたまらなくて、魔王の手は自然と勇者の体を撫で始める。
決して柔らかいわけではない。それなのに触り心地が良く手に馴染んで、撫でる動きを繰り返してしまう。
胸を伝い、腹を撫でて、横腹をさすり、胸元へと戻る。じっくりと味わうようにそんな動きをされては、勇者もたまらず体が跳ねた。
「ま、魔王……」
「起きたのか」
「ん、ああ……ま、待て、あまり触れると……」
「もう勃ってるぞ」
下腹を伝った魔王の手が、焦らすように布越しに先っぽを撫でた。
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