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第41話
「あっ……や、直接……」
「いいだろう。何があったのかを俺様にすべて明かせば触ってやる」
魔王の目がギラリと光る。その鋭さに、勇者は思わず言葉をのんだ。
魔王はどうしても腑に落ちなかった。勇者とは喧嘩はすれど、仲が悪かったつもりはない。今回のことで距離は縮まっていたと思うし、友人以上くらいにはなれていたとも思っている。
それなのに勇者は、魔王を一切頼らない。一人で完結して、一人でどうにかしようとしている。
思えばスレイグのときもそうだった。眠り姫と知り合いで最初からスレイグが偽物であると気付いていたくせに、魔王には何一つ教えなかった。早い段階で小人が怪しいと話し合いが出来ていれば、勇者が魔封じをされることもなかったかもしれない。
(……こいつは、いつも……)
どうして魔王のことを信頼しないのか。
「……言ってみろ。どこに行って、何をした。どうして突然あんなことを言ったんだ」
魔王の手が、勇者の固くなった中心を撫でる。先っぽを細かくいじられてしまえば、勇者もつい腰が揺れた。
「っ、魔、王……!」
勇者の手が自身の下腹に伸びた。けれど魔王がそれを許すはずもなく、あっさりと押さえられて終わる。
「言えば俺様がしてやるぞ」
指先で遊ぶように、魔王はさらに勇者を追い立てる。
それでも勇者は言うわけにはいかなかった。
これは勇者の問題だ。勇者のことに、魔王が巻き込まれた。
ガイルが企てたことにユリアスが加担して、スレイグという悪魔の力さえ借りた大掛かりな茶番である。とばっちりを受けたと言ってもいいほどに無関係な魔王に、どうして頼ることができるだろうか。
――勇者は魔王を愛しているからこそ、これ以上は巻き込みたくなかった。
それに、
(……どうせ、あいつのところに行くくせに)
今すがってしまうと、手放すことが出来なくなるかもしれない。ガイルのように、勇者もおかしくなってしまうかもしれない。そうなる前に、傷が浅い今のうちに早く魔王から離れたかった。
「ほら、早く言え」
魔王は容赦無く勇者を追い詰める。すっかり固くなったそこを指でつまむように触れると、カリの部分を重点的に擦り始めた。
「っ、う、あ! 魔王! 嫌だ、もっと、」
「言ったらな」
勇者の腰が浮いて、強い刺激を求めるように突き出された。けれど魔王は手を離す。腕だけは押さえたまま、勃起したそこは放置されてしまった。
「……魔王?」
眉を下げた勇者が、弱々しい瞳を魔王に向けた。それについ理性を揺らしながら、魔王は必死に自制する。
「どうして言わない。そんなに俺様は頼りないか」
「……そうじゃない」
「では何だ。貴様はなぜそんなにも頑なに俺様を拒絶する」
魔王は、押し倒した体勢のままでじっと勇者を見ていた。真剣な顔だ。声音も固い。少し苛立ってもいるのか、不機嫌な雰囲気も感じられる。
――本当は助けてほしかった。これまでのように、手を貸してほしかった。ガイルがおかしくなったのだとすべてを話せたらどれだけ心が救われるだろう。
だけどそれは選べない。魔王はただでさえ、愛する相手がいるにも関わらず勇者にキスを与えるという「苦痛」を担っている。それなのにこうなった原因が勇者の事情であると知られたら、嫌われてしまうかもしれない。
勇者は魔王が好きだ。両思いなんて願わないから、せめて嫌われないように居たかった。
「……好きな男が居るんだ」
勇者の言葉に、魔王が静かに瞠目する。
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