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第43話

     *   『あれ? 繋がってるのかな? おーい、起きてるかなー』 『ま、まま、魔王! 寝るな! お、起きろ!』 『わあ、リアったらそんなに大きな声出して……ふふ、興奮しちゃうなぁ』 『ヒィ!』  枕元で魔法石が光っていた。そこからミシェルとリアの声が聞こえるけれど、当の魔王は目を開けない。代わりに動いたのは側にいた小人だった。ちょんちょんと魔法石に触れて、「魔王は寝てる、寝てる」と状況を伝える。 『ツェリェ! ぶ、ぶ無事だったの!』 「眠り姫! 眠り姫!」  名前を呼ばれて、小人は嬉しそうに飛び跳ねた。しかし感動も束の間、寝ぼけた魔王が小人の頭をわしづかみにして、鬼の形相で起き上がる。 「わー! 殺される! 殺されるー!」 『え、何!? ツェリェ!?』 『魔王が起きたんじゃないかな? おーい、ぼくだよー』  それは最悪な目覚めだった。夢見も悪かったような気がする。魔王はいまだに恐ろしい顔つきのままで、ようやく光る魔法石へと目を向けた。 「……うるさいぞ人間ども。殺されたいのか」 『おおお前なんか怖くないからな! ノアのこと見捨てたくせに!』 「ぁあ?」  魔王はようやく小人を放り投げて、脱ぎ捨てていた洋服を拾う。情事のあとは多く残っている。それに昨夜を思い出しながら、ふぅと軽く息を吐いた。 『近況報告をしろと石を渡したのはきみだろう。だからこうして通信しているのに、態度が悪いねぇ』 「近況は不要だ。問題はなくなった」 『は、はあ!? 問題はない!? ふ、ふふざけるな!』 『まあそう怒らないでよリア。ね? きみの身一つで僕がどうにでもしてあげるから』 『ヒィ! そう、そうじゃなくて! お、おれはこいつの性根が気に入らないって話を……!』  着衣を済ませた頃、魔王はようやく室内に勇者が居ないことに気がついた。  疑問に思ったのは一瞬だ。魔王はすぐに苛立ちを思い出した。  勇者は好きな男の手を取りたいからと魔王の元を離れたのだ。最初は絶対に嫌だと拒否していたセックスさえ受け入れて、魔王に抱かれた体でほかの男の手をとった。 (……別れの言葉もなしか)  魔王の存在は勇者にとってその程度のものだったのかと、魔王はさらに苛立ちを覚える。  スレイグに奪われたときよりも心は荒れていた。あのときは勇者の意識もなく、勇者の意思でスレイグの手をとったわけではなかった。しかし今回は違う。今回は、勇者が自ら選んで魔王ではない男を選んだ。  それが、どうにも許し難い。 『おおおお前のせいだ! 今王都は混乱してる! お前がノアを売ったからだ!』 「……なんだと?」  魔法石の向こうから、リアをなだめるミシェルの声が届く。しかし魔王は小人へと意味深な目を向けるだけで、言葉を返すことはない。 「おいらは何も知らない! 知らない! あいつは魔王様を頼むっておいらに言って出て行ったんだ!」 「頼む?」  自ら手放しておいて、何を言っているのか。  魔王は自身の力が戻っていることを確認して、ふたたび重くため息を吐いた。

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