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その後(1)

   ぷらぷらと、勇者の足が揺れる。  普通であればしっかりと足がつくそれも、子どもとなった今では届かないのか、食事中もそこは楽しげに揺れていた。 「魔界のごはんもなかなかいける! コックさんだぁれ?」 「私です。お気に召しましたか」 「うん! ありがとう、ぼくしあわせ!」  勇者がにっこりと微笑むと、その天使の笑顔にシェフの胸が撃ち抜かれた。周囲に控えていた使用人も口元を押さえて頷いている。  勇者が小さくなってはや二日目。勇者の適応力は高く、さすがというべきかそんな状況さえ楽しんでいるようで、勇者はすっかり周囲の人間で遊んでいるようだった。  自分の容姿の良さをきちんと理解しているのだろう。  もともと美しかった勇者が子どもになったのだ。それはもう、天使の子かと言わんばかりには愛らしい。 「ノア」 「む? なぁに、アンセル」 「その角度をやめろ。俺様は惑わされないぞ。……あまりそうやって遊ぶなよ、部屋に閉じ込められたいか」 「やだ。ぼくのことおこらないで」  ぷく、と頬を膨らませて、勇者は唇を尖らせた。  可愛い。圧倒的に可愛い。間違いなく翼をもがれた天使である。しかし魔王は気に食わない。その容姿を可愛いと思う人間が、たとえ子どもの勇者相手であれ自分以外に居ることが許せない。  複雑な心境だ。怒りたいのに、あんなにも愛らしい表情で「やだ」などと言われては強く言い出せない。 「ノア。……怒らないから、普通に飯を食ってくれ。遊ぶな」 「ぼくふつうにたべてるもん」 「……甘えた喋り方もやめろ、いちいち刺さる……!」  絶対に敵わない。そんな魔王や周囲の心情をすべて理解した上で、勇者はぶりっこをしているのだ。  分かっているのに、まんまと勇者の思惑にハマってしまう。魔王は拳を震わせながらもなんとか食事を終わらせると、勇者が終わるのをしっかりと待ってすぐに勇者を抱き上げた。 「わあ! アンセル!?」 「俺様たちは部屋に戻る」  魔王は大股に部屋に向かう。その間も勇者は腕の中で上目遣いに魔王を見たり、こてんと首を傾げてみたり、魔王を惑わせようとしていた。  しかしなんとか堪えて部屋にたどり着く。扉をきちんと閉めてから、ようやく魔王は肩の力を抜いた。 「ノア……」 「ふふふふ、みたかアンセル! みんなのあのぼくがかわいくてしかたがないとおもっているかお!」 「ああ、良かった、戻ったな……」  ぎゅうと一度抱きしめると、魔王は勇者をそっとベッドに座らせる。 「しかしああいったことはあまりするな。誰かが本気で貴様を奪おうとしたらどうする。城が壊滅するぞ」 「アンセルのしっとで?」 「俺様の嫉妬で」  勇者は思ったより素直だった魔王に驚いた目を向けると、すぐにふふんと得意げに微笑んだ。 「まあしかたない。ぼくはこのすがたでもカワイイからな!」 「分かっているならあまり遊ぶな」 「……そういえばさぁ」  ベッドの下に座り勇者を見上げていた魔王は、頭を抱えて深いため息をついていた。そんな魔王を見下ろして、勇者は少しばかり足を開く。 「このからだでエッチってできる?」 「ごふッ!」 「ぼくちっさくなったから、むりかなぁ?」 「い、や、いやいや、その前に! 俺様にも倫理観が一応ある! 子どもを犯す趣味はない!」 「え! じゃあぼくの体がもどるまでエッチできないのか!?」  心底残念そうに叫ぶと、勇者はやだやだと大きく頭を振っていた。  嫌だと言われてもできないことだってある。そもそも魔王のモノが子どものナカに入るとは到底思えない。それ以前の問題ではあるが、想像するだけでもいけないことのような気がして、思わず脳が拒否してしまう。 「もしかしたらこれもエッチでもどるかも」 「そんなわけがあるか。ユーグレイアを呼ぶぞ。先代に聞いたほうが早い」 「わーまって! ぼくもうちょっとこの体がいい!」 「昨日もそう言って阻止したな。今日一日で充分に遊んだだろう。これ以上は本当にさらわれるぞ」 「むー。一回だけエッチなことしてからもどりたいー」 「それが本音か」  子どものように足を揺らして、勇者は拗ねたように唇を尖らせていた。  魔王のベッドは大きいためか、やはりそこも足がつかないようだ。そんな小さなことにも可愛いと思ってしまうのに、そんな子ども相手に手を出せるはずもない。  魔王は「ならもう少し遊んでいろ」とふたたびため息を吐き出して、呆れたように立ち上がる。 「じゃあいいよ。ぼくがかってにするから」  立ち去ろうと魔王が背を向けたと同時だった。  背後から、かちゃりとベルトを外す音が聞こえた。 (……する、勝手にする? 何をだ……?)  嫌な予感がする。動きを止めた魔王が、それを確認するようにゆっくりと振り向いた。  一番に、勇者の小ぶりな中心が見えた。真っ白で綺麗なそこは、ちょこんと愛らしく横たわっている。さらに勇者はシャツも脱ぎ捨てる。すると次には胸元に二つの小さなピンクが見えて、思わずその体に目が止まる。  欲情しているわけではない。ただ子どもとはいえ勇者の体であると思えば、魔王は茶化すこともできなかった。 「アンセル、見て、ぼくの。ちっちゃい」 「うぐ……見せるな。持つな」  中心をつまんで魔王に見せる勇者に、きっと他意はない。しかし魔王が怯んだのを見た勇者は、効果的と悟ったのかすぐにそこを優しく扱き始めた。 「こら、ノア……」 「あ、きもちい……アンセル、見て……」 「や、めないか」  口では勇者をたしなめるくせに、魔王のその目は自慰をする勇者から離れない。  ちゅくちゅくと微かな音を立てて手が上下する。  小ぶりなそこはぴょこんと勃ち上がっていた。天使とも思える愛らしい容姿は快楽に溶け、頬にも赤が差している。小さな唇からは普段の勇者よりも高い声で喘ぎが漏れていた。うっすらと開いた唇の奥に舌がちらりとのぞき、そこが物干しげに微かに動いている。  一つ一つを確認して、魔王の喉がごくりと鳴った。 「アンセル……あっ、イく、ぼく、アンセルに見られて、イっちゃう」  あられもなく脚を開き、蕾までもが丸見えだ。  射精感が高まったのか、勇者の手がさらに激しく上下する。  可愛い。どうしようもなく可愛い。決して子ども趣味はないが、これを勇者がしているのだと思うと、魔王を嵌めるための罠だとしても可愛いと思えてしまう。  あの勇者が、魔王に見せつけるように自慰をして誘っている。魔王を欲しがっている。触れてくれと強請っているのだ。  魔王の足が、ふらりとそちらに踏み出した。  勇者の前に戻ってくると、勇者の手元を覗き込むようにベッドの前にしゃがみ込む。そうして勇者の手を掴み、ゆるりとそこから手を外した。

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