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第19話 視察
翌朝、青龍の先祖代々の霊廟に遺骨を納めると、予定どおり、近くにある緑柱石の採掘場へ、視察に向かった。
道中をゆくにつれ、次第に緑が薄くなり、灰色の岩肌をむき出しにした崩れやすい道を登り続けること半刻ほどだろうか。いきなり視界が開けたかと思うと、露天掘りの採掘場が広がっていた。
陽光にきらきらと輝く岩肌に目を細めると、迎えに出た鉱山の管理責任者らが、八尋ら一行を広場へと先導してくれた。
東雲は足繁くこの採掘場へ通っているらしく、気安い様子で管理責任者と少し話をすると、八尋ら一行を振り返った。
「基本的にここは露天掘りなのですが、一部坑道もつくってございます。中をご覧になられますか? 陛下」
東雲の提案に、同行した資源省と商業省の大臣たちが慌てて口を開いた。
「万が一、崩れるようなことがあっては大変です。ここは代わりにわたくしどもめが……」
「大丈夫だろう」
鷹揚な返事をする八尋に、東雲は苦笑を返しながら提案した。
「この採掘場ではまだ一度も事故は起きておりませんが、坑道は絶対に安全とは言えない場所でございます。あえてお勧めはいたしません。代わりと言っては何ですが、露天掘りの採掘場を、近くにて、ご覧ください」
促されて鉱山の管理者と一緒に作業場まで降りてゆきながら、東雲は口を開いた。
「この鉱山は、ここ数ヶ月で倍に広げました。先ほど、最初にいらした採掘場は、既に選堀を終え、廃棄段階に差し掛かっておりますが、こちらでは探掘が終わり、この地方一帯で最大の緑柱石の採掘場となっております。産出量が多いため、探堀段階ですぐに露天掘りに切り替えたのですが、あと五十年ほどは、資源が見込まれています」
「俺のもとにも毎年、見事な細工が送られてくる。礼を言うぞ」
「ありがとうございます。緑柱石は硬度があるわりに外部からの圧力に弱く、加工が難しかったのですが、わが地方には幸い腕のいい職人がおりますゆえ。彼らと同じ加工工房に若い者を採用し、技術の継承にも力を入れております」
「先ほどすれ違った荷馬車が、確か緑柱石を積んでいたな?」
「はい。加工品は、ここから馬車で四半刻ほどの、街の入り口にほど近い、丘の上の森の中にございます。加工された緑柱石は市場価値が何倍にもなりますので、別の地域から運ばれた金や銀のなどの金属と組み合わせ、それを県外に売りに出る体制が整ってございます。陛下が街道整備にご尽力くださったおかげで、流通量は四年前の約三倍となりました」
装飾品が市場に流通するのと同時に、裸石と呼ばれる原石を磨いただけのものも、祭日に立つ市でさばかれているとのことだった。
「東岩地方は痩せた土地が多く、県内だけでは食べてゆくことができません。周囲の県と連携し、食料や燃料を調達できなければ冬を越せるかどうか。陛下の整備してくださった街道がなくば、とても今の東岩地方の経済力は生まれなかったでしょう」
ゆえに道路や橋などの整備が重要になってくるのだと、東雲は結んだ。八尋が即位後すぐに取り掛かった街道整備事業は、四年が経った今、東岩地方にも網の目のように張り巡らされている。
その恩恵を受けての、辺境都市の繁栄なのだった。
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