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第22話 つがい

「決闘を望む」  東雲の要求は、それだけだった。 「私を殺せば、民が黙っていない。東岩地方を敵に回したくなくば、尋常に勝負されたし」  軟禁状態で何度か取り調べを受けている東雲は、その一点だけを強行に主張した。  ら号の報告を受けた八尋が、ゐ号の見舞いに訪れたのは、うつらうつらと浅い眠りを繰り返し貪り、ようやく夜になった頃だった。見舞いに訪れたのは八尋ひとりではなく、傍らに怪我をした八号と、親衛隊隊長の伍条を伴っていた。 「そなたの機転には助けられた。よく耐えて退路を確保してくれた」  伍条が言うと、手首に包帯を巻いた八号が頷いた。 「おかげで大変でしたけれども、ね」  どうやら退路を開いたあとで、闇夜に突進していったゐ号を追いかけたのは、八尋のようだった。八号が目くらましに馬車から出て、衆目を引いている隙に、八尋が自ら騎馬を飛ばし、ゐ号を探しに出たらしい。城に帰還した時は、マントも服も汚れて、腕にゐ号ひとりを抱えていたとのことだった。 「それでは、うなじと、劣紋は……?」  恐るおそる尋ねると、八尋が答えた。 「俺が噛んだ」 「そ、う、でしたか……」  刹那、胸に安堵が広がり、じわりと視界が滲んだ。八尋が追いかけてきてくれたことが嬉しく、同時に八号にも親衛隊にも、酷く迷惑をかけることになってしまったことを後悔する。 「そなたには、悪いことをした……。許せとは言わぬ。この件が片付いたら、正式につがいの儀を執り行うが、よいか」  訥々と尋ねる八尋の声は、どこか沈んでいた。東雲に裏切られたことが、堪えているのかもしれない。もしくは、ゐ号を噛んだことを、悔いているのだろうか。  死が、ふたりを分かつまで、つがいが解消されることはない。つまり、それは裏を返せば、ゐ号が命を投げ打てば八尋が自由になるということだった。 「はい……ご迷惑をおかけいたします」  ゐ号は、視線もろくに合わせようとせず、ゐ号に触れようともしない八尋に対して、返せないほど大きな借りをつくってしまったことを、今さらながらに自覚した。 「陛下の御心のままに、わたくしは従います」  ゐ号がそう答えると、八尋はなぜか、どこかに痛みを覚えたような表情をした。

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