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第23話 決闘

 東雲が軟禁され、三日目が過ぎようとしていた。  早馬の返事が八尋のもとにもたらされ、城内はにわかに活気づいた。朱雀隊が王都を出立し、怒涛の勢いで東岩地方に向かっているとの報によるものだった。  八尋はしかし、顔色が悪く、沈んだ表情をしていた。いかに巧妙に隠し、冷静なふりをしていても、東雲の裏切りが堪えたのだろうことは明らかだった。東雲は、先の戦で亡くなった青龍の仇、と八尋を名指しで糾弾し、涙して責め立てたらしかった。東岩地方の各地にいる貴族たちは、東雲に付く者と八尋に恭順を示す者とで割れた。誰が敵か味方かわからないため、親衛隊員たちは居城の南東の一角を占領に近い形で接収し、王都から随身してきた者以外を遠ざけざるを得ない状況に陥っていた。 「ま、陛下はわたしがお守りしますので、ご安心を。ゐ号も下ばかり向いていてはいけませんよ」  八号はそう茶化したが、状況は決して楽観視できるものではなかった。  城下街に、八尋と東雲が決裂した噂が流れるのも、時間の問題であった。なまじ豊かで広大な地域だけに、独立運動でも起こされたら目も当てられない。かと言って、東雲をこのまま処断したのでは、民たちの反発を買うのは必至だった。  南東寄りの城の一角を三交代制で守り切る。今のところ、城内にいる使用人たちは、東雲の企みに衝撃を隠せない様子で動揺してはいたものの、途方に暮れたまま、大人しく恭順を示す者が多かった。が、何がきっかけとなり、彼らの気持ちが動くかわからない。東雲に同調した同情論が膨れ上がるのを、座して見ているわけにはいかないが、かといって、他に効果的な策を打てない今の状態は、もどかしかった。重ねて、今は親衛隊員たちで固めている城の守りも、長引けば地の利は地元側にあり、数で押し切られる可能性があった。 「わたしを殺せば、民も黙ってはいまい」  軟禁された東雲は、見通すようにそう嘯き、八尋以外とは口も利かない様子だという。 「やはり、決闘を受け入れ、広く民衆にわかる形にするのがいいのではないでしょうか。確か、放置されたままの闘技場が、街の中心付近にまだあったように記憶しておりますが」  善後策を会議で揉んでいる時、ぽつりと八号が言った。朱雀隊が宵の頃に到着するとの知らせがもたらされると、緊張していた議場の空気も少しだけ緩んだ。そんな中、大臣たちを含め、伍条までもが反対する中、八号の案に八尋だけが同調した。 「兵らの緊張が切れるのも時間の問題だ。民衆の暴動が起こる事態だけは避けたい。これは私怨だ。俺と東雲卿で決着をつけるほか、あるまい」 「しかし、陛下自らお出になることは……」  危ないことは八号にやらせれば、という意見には、八尋が承知しなかった。東雲が八号を正確に見分けるため、その案は棄却された。 「後々を考えれば、あとへは引けまい。伍条、万が一のことがあった時は、あとを任せる」 「はっ」 「俺は東雲卿ともう一度、話してみる。だが、始末がつかないようであれば、決闘だ。用意を頼む」 「承知いたしました」  ゐ号が不安げな視線を送ったが、八尋から眼差しが返ってくることは、ついぞなかった。

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