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第25話 守り番の夜まで

 一週間後、東雲は蟄居扱いとなり、暫定的に東岩地方は国王直轄領になった。多少の混乱はあったものの、八尋のもとに、東雲に対して寛大な処置を求める嘆願書が地元民から届き、それに八尋が応えた形となった。 「よろしいのですか、王よ」 「くどい」 「ですが、もしも反乱でも起こされたのでは……。あの地方は我が国きっての商業都市でありますゆえ、鎮圧は厳しくなるかと」  大臣たちに詰め寄られ、着替えをしながら八尋は肩を竦めた。 「東雲ほどあの地方に適した人材はおらぬ。謹慎はいずれ解く。東岩地方をこれまでどおり、豊かにしてもらわねばならんからな。それに……俺も先だっての戦では、だいぶ堪えた。もうこれ以上、有能な臣下を失うわけにはゆかぬ。時間が必要なのだ。嘆願書にはすべて目を通した。纏めて東雲の謹慎先に送ってやれ。己がどれだけ必要とされているか、目の当たりにすれば、自殺願望も和らごう。それと、万が一、反乱が起きた時は、故郷が粉塵に帰すと伝えろ。青龍の故郷をわざわざ俺に蹂躙させるような、馬鹿な真似をするほど奴は蒙昧ではあるまい」  あれはいい領主になるはずだ、と八尋は祈るように最後につけ加えた。  御前会議でのこの決定に先立ち、朱雀が東岩地方へ駐留することになった。大臣をはじめとする穏健派がそれに反対したことが、ゐ号には意外だった。  以前にも増して、八尋が時々、遠くを見る。  その回数が増えたことが、ゐ号の気にかかっていた。  闘技場での騒ぎが終わり、松明事件が一段落し、朱雀にあとを任せて王都に帰還して、一週間。先日、口頭で約束されたはずのつがいの儀の件は進展しなかった。忘れられているのかもしれないし、八尋は多忙の身だ。だが、八尋はかつてゐ号がそうであったように、あの松明事件のあとから、ゐ号とちゃんと目を合わせようとしなくなった。  八尋に心変わりがあったのか、と気を揉みながら日々を過ごすゐ号だった。  もしかすると、八尋はゐ号のうなじを噛んだことを後悔しているのかもしれない。もしそうならば、八尋のために何ができるだろう、とゐ号は考えた。  そして考え抜いた上での結論を八尋に伝える隙が見つからないまま、ゐ号に守り番の夜が回ってこようとしていた。

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