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第7話
次の日から、純一は哲朗のアドバイス通り、女子の理想に近付く事を止めた。
制服がダボついているのは仕方がないとして、髪型も身なりも、清潔感第一に考える。
すると、教室に着くなりクラスメイトの女子に挨拶された。
「おはよう川崎くん、今日は何だか雰囲気違うね」
「そう?」
「うん。良い感じ」
クラスメイトは笑顔で去っていく。
その他にも、数人に声を掛けられ、今までのスルーぶりは何だったんだと思う程だ。
(普通にした方が声掛けられるとか、何なんだよ)
内心少し悔しくもあったが、こちらの方が楽なのでホッとする。湊と司はどんな反応をするだろうか。
「おはよう純一」
「あ、おはよう湊」
噂をすればなんとやらだ。純一は期待に胸を膨らませた。
「何だかご機嫌だねぇ」
「そ、そうかなー」
(あれ? 意外と普通だ)
湊はいつも通り自分の机にカバンを置くと、純一の所に来る。そしていつも通り、他愛もない話を始めるのだ。
(もう少し反応があると思ったのに)
少し残念に思っていると、司がやってくる。彼は純一の姿を捉えると、真っ直ぐこちらにやって来た。
「おはよう」
「おはよー」
純一と湊は挨拶を返す。
すると司は湊をぐい、と押し退けた。
「いつもより近いぞ」
「え? そんな事無いでしょ」
良いから離れろ、とグイグイ押す司に、湊は抵抗した。
「ちょ、何で俺と純一の間に入ろうとしてるの」
「何かムカつくから」
「二人とも止めろって」
純一はそばでじゃれだす二人を宥める。 何かあると対抗し合う二人は、司は割と本気なようだが、湊はからかっているようにも見える。
「なんか俺、司に嫌われてるよねぇ」
「嫌ってはいない。ムカつくだけだ」
「それってどう違うの」
二人はそう言いながら、いつも通り純一の両隣りに来る。そしていつもより身体が近くて、というか両側からぎゅうぎゅう押されて、純一は息苦しさにそこから脱出する。
「二人とも止めろっ。俺を圧死させる気かっ」
「あはは、司ったらマジになっちゃってー。本当に純一の事好きなんだね」
こともあろうに純一を無視して湊は司をからかいだす。教室内で、クラスメイトもいるのにその話題はやめてほしい。
「好きで何が悪い。お前こそ、その思わせぶりな態度は止めろ」
「わー! わー! 二人ともストップ!」
はたから見たら、二人が純一を取り合っているように見える会話に、純一がストップをかける。
言う通り大人しくなった二人は、まだ静かな火花を散らしていた。
「もうチャイムが鳴るよ。違うクラスの司くん」
湊がニコニコしながら、「違うクラス」を強調して司を追いやろうとする。
対して司はいつもの無表情に戻ると、純一にだけ挨拶して去っていった。
純一はため息をつく。
「あのなぁ、司をからかうの止めろよ」
「だーって、普段無口無表情のくせに、純一が絡むと面白いんだもん」
ニコニコと話す湊は、悪気ゼロだ。そのしわ寄せが純一に来るので、是非とも止めて頂きたい。
それに、と湊は純一の耳元で囁く。
「司は純一の事、恋愛感情で好きなんでしょ?」
「……っ!」
純一は湊に囁かれた耳を押さえてバッと離れた。
顔が熱くなったのは湊の声のせいなのか、それとも話の内容のせいなのか。
「な、何でっ、気付いて……っ」
「やだなぁ、アレで隠し通せてると思ってたの?」
純一はさらに顔が熱くなる。その顔を見た湊は「可愛いなぁ」と更に笑みを深くした。
そうなると、純一が一生懸命隠そうとしていたのは、無駄だったって事になる。
「人が悪いなぁ、湊は」
「あはは」
湊は明るく笑う。そこでチャイムが鳴り、話はお開きになった。
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