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第16話

そして迎えたゴールデンウィーク、約束通り純一は司たちを家に招いて勉強会をした。 「純一らしいっちゃあ純一らしい部屋だね」 「どういう意味だよそれ」 自分の部屋に二人を案内すると、湊が部屋を見渡してそんな感想を漏らした。 勉強机はあるものの、添え付けの本棚や、そばにある本棚には漫画しか置いてない。 「じゃあ早速やりますか。この机使って良いの?」 湊が床に置いたローテーブルを指す。純一は頷くと、二人はそれぞれ座る場所を決めて、教科書などを広げていく。 「って、司は教科書だけ?」 「ああ」 純一が聞くと彼は頷く。しかもアンダーラインも引いていない教科書を、ただ読むだけだと言うのだ。 純一も早速机に向かって勉強に取り掛かるが、テスト対策として配られたプリントさえ、一問目から分からない。ヒント、と思って教科書やノートを見てみるが、答えらしきものは見つからない。 「無理、分からん!」 「ちょっと純一、始めてから五分も経ってないよ?」 純一がシャーペンとノートを放り出すと、湊は笑いながら「こっちへおいで」と手招きしてくる。この集中力の無さも、純一の成績の悪さに拍車をかけていた。 純一はプリントを持ってローテーブルに着くと、湊が自分のノートを差し出してくる。 「これを見てやってみて。それでも分からなかったら聞いて」 純一は湊のノートを見ると、テストに出やすいところ、重要なところやポイントが綺麗に書かれていた。 「なにこのノート。どうやったらこれ書けるの」 これを見れば穴埋め問題はすぐに埋まる。暗記系の教科ならこのノートで充分だ。 「それは復習用のノート。アウトプットしないと覚えられないからね」 にこやかに返す湊は、このノートの丁寧さや、わかり易さからして、案外努力の人なのかもしれない。 「とりあえず純一は、そのプリントを覚えるまでやってみたら?」 「そうする」 自分一人では全然埋まらなかったプリントを、ものの数分で終わらせて自信がついた純一は、湊の言う通り、答えを暗記するところから入った。我ながらそれだけでやる気が出るなんて、単純だなぁと思う。 その間司はというと、やっぱり教科書を読んでいるだけだ。 純一はしばらく暗記を頑張っていたが、やっぱり集中力が切れてきて、何か話したくなってくる。 「司ー」 「何だ」 「飽きたー」 「……違う教科にしてみたらどうだ?」 純一はそれいいね、とプリントを片付ける。先程の湊のノートを見せてもらう作戦でいこうかと思ったが、暗記できない数学などの教科はそうもいかない。 「じゃあ、数学教えて」 純一は教科書と問題集を机の上に持ってきて広げた。テストは、この問題集の中からアレンジしたものが出ると言っていたので、一度は解いておきたい。 「分かった。どこだ?」 司は問題集を覗き込む。純一は一問目を指さす。 「最初から全部」 はなから自分で考える気の無い純一に、司は怒るでもなく問題を読んでいる。そして、純一の教科書を手に取り、あるページを開くと机に広げた。 「それはこのページの通りだ。数字が違うだけでやり方は同じ」 純一は固まった。教科書を見せられても、そもそもそれを理解していないのだから、解けるはずもない。 「やり方は同じって……そもそもそれが分からん」 「何故だ? 中学の数学の延長のハズだが」 喋りながら、純一はこいつはダメだ、と思う。教科書を読めば理解できる司と違って、純一は読解力もそんなに無い。自分を棚に上げて、説明が下手なやつだと思ってしまった。 「だから、教科書に書いてある事がそもそも理解できないから教えてって言ってるの」 「……」 司は黙ってしまった。しかし、純一には司が何を思ったか分かる。 「今、こいつどうしようもなくバカだなって思っただろ」 「まぁまぁ、俺が教えてあげるから……」 湊が純一の教科書を、自分の方へ寄せようとしたが、司はその前に奪う。 「そんな事は思っていない」 相変わらずの無表情で言う司は、本当の事を言っているのかイマイチ分からない。 「嘘だ」 「……半分」 「ほらやっぱり!」 純一は口を尖らせた。自分でも頭が良いとは思っていないけど、人に言われるのは何だか嫌だ。 「でも、そこがどうしようもなく可愛いとも思った」 「ふぁっ!?」 純一は変な声を上げて悶えた。恥ずかしくて、でもムカついて、顔が熱くなりながらも司を睨む。でもやっぱり司は、いつもの顔だ。 「あらー、愛されてるね、純一」 そして湊からも、可愛い、とニコニコされて、勉強会なんて開くんじゃなかった、と後悔する。 「じゃあ困っている純一のために、俺たちで手取り足取り教えてあげよう」 湊が嬉しそうに隣に座る。司も隣に来て、いつものように挟まれた。 「や、俺、やれる所まで頑張ってみるよ……っ」 嫌な予感しかしない純一は、どうにかこの場を切り抜けたくて、さっきとは矛盾した事を言う。 でも、そこで引き下がる二人ではないのだ。 「さ、俺たちが教えるからには、きっと良い点数取れるから」 「覚悟しろよ」 何故か普段は火花を散らしているのに、今だけは息が合っている二人に、純一は震え上がったのだった。

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