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第23話
その後、純一も湊も、軽く見たい店を回って、今日のメインの本屋に入る。
司は迷うことなく新刊コーナーへ行き、手に取って見ている。
「今どきインターネットで買えるし、電子書籍もあるんだからそっちで買わないの?」
重くない、かさばらないのがメリットだが、司がわざわざ本屋に来る理由は何故なのか、純一は聞いてみた。
「こうやって実際中身を見て買いたい。やはり相性もあるから」
相性? 本との相性って何だ? と純一は首をかしげる。
「読みやすい、読みにくいがあるって事じゃないかな」
湊がスーツケースを持ってあげる。さり気ない優しさでサポートするのはさすがだ、と純一は思う。
そして司はというと、すでにカゴの中は十数冊入っていて、この調子で本を買うのか、と少し不安になった。
「……こんなものか」
司はそう言って、レジへ向かう。買い物はこれで終わりかと思いきや、カゴを店員さんに預け、新しいカゴを持って戻ってきた。
「え、まだ買うの?」
「何を言っている。各ジャンル、全て見るぞ」
そう言って司はビジネス書のコーナーへ向かった。自己啓発本などの新刊や、資格の本まで手に取っている。
「何か……司が頭良い理由、少し分かった気がする」
湊が司を眺めながら純一に話した。
「勉強のためじゃないんだね。純粋に読み物として本が好きなんだろうなぁ」
そう言われてみれば、と純一も司を眺めた。
いつも読めない表情をしている司だが、今は心なしか楽しそうだ。
本といえば雑誌のグラビアを見て、どの子が可愛いだとか言ってる純一とは、次元が違う。
「そういえば、雑誌を見れば司の着ている服の、ブランドが分かるかもしれない」
湊がそう言うと、司に断って二人で雑誌コーナーへ向かう。
男性向け雑誌の、表紙にスーツを着たモデルがいる物を取る。
「デザインからしてこんな感じなんだよねー……やっぱり。これだよ、セダール」
パラパラとページをめくった湊は、純一にそのページを見せてくれた。確かに司の服と、似たようなデザインのものが載っている。
その雑誌は三十代、四十代向けの雑誌で、何故司がそんな服を来ているのか、謎が深まるばかりだ。
「親父さんが着てるとか? って、シャツだけで二万とかするの!?」
純一が最も可能性が高そうな事を言うけれど、シャツの値段に驚く。
そして、今日の本の買い方といい、司はそれなりにお金持ちのボンボンなのでは、と思った。
「……もしかして司の家って金持ち?」
純一の言葉に対して、湊はうーん、と首をかしげた。
「性格はともかく、所作は綺麗だからねぇ」
「あ、それ軽く司をディスってる?」
純一は笑う。湊も自覚があるようだ、彼も笑った。
「おい、何を話している」
そして決まってこういうタイミングで、司が来るのだ。
「あ、司。君が着ている服、もしかしてセダール?」
湊が雑誌を見せると、司もそれを見る。家に似たような服があるから多分それだと、司は服のタグを探した。しかし、その服にはタグが見つからず、切ってしまったのかもしれない、とすぐに興味無さそうに話を終わらせた。
「待たせたな、買い物は終わった。どこかで休憩しよう、今日の礼に奢るから」
そう言って司は湊からスーツケースを受け取ってレジに向かって行く。
今日買った本は、一体どれくらいで全部読むのだろう? スーツケースを満タンにして満足気に戻ってきた司は、行くぞ、と本屋を出ていく。二人もそれに続いた。
「それにしても大量に買ったな。どれくらいで全部読むんだ?」
純一が司を見ると、彼は「さぁ……」と返すだけだった。
「時間とか気にした事がない。読むのが無くなれば売ったりして、そのお金でまた買いに行く」
司の本は、一応循環はさせているらしい。気に入ったのだけ残して、後は売るそうだ。
「でも、それじゃあ家は本だらけにならない?」
「そうだな」
司のコミュ力は相変わらずで、そこで会話が途絶えてしまう。
しかし純一はもう少し頑張ってみた。
「でもアレだな、文字を読んでも眠くならないのは才能だよな。俺なんか5秒で寝ちゃうもん」
「……」
司は何も言わず、ほんの僅かに口角を上げた。
純一はそれが笑ったのだと気付くのに、数秒かかる。
「え? 今笑った? 湊、見てたか?」
「え? 俺には分からなかったよ」
「俺だって笑う時もある」
「やっぱり笑ったんだ! ってか分かりにくっ」
そう言いながら、コーヒーショップに着く。純一は、少し頑張って話してみて良かったと思った。おかげで貴重な司の笑ったところが見れたからだ。
三人はそれぞれオーダーをし、司が宣言通り会計をして、飲み終わったところで解散する。
まだ帰るには早い時間だが、司が荷物を持って移動するのが大変そうなので、純一もまっすぐ家に帰った。
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