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第24話
気温と湿度が高くなり、衣替えも完全に終わる頃。
「天気が良すぎるのもしんどいね」
湊が空を仰ぎながら言う。
雲一つない晴天。けれど屋外で遊ぶには暑すぎる。
湊と約束したデートで、純一はテーマパークに来ていた。
「こんなに暑くなるとはなぁ。おかげで絶叫系も気持ちいいけど」
人気のアトラクションの列に並びながら、純一は滲み出る汗を拭う。この季節にはもってこいの、水しぶきが派手に上がるアトラクションだ。
確かに、と湊は笑った。
「あの、すみません……」
列を折り返した先の、女の子グループから声を掛けられる。一緒に遊びませんかというお誘いだ。
純一はまたかよ、と内心笑顔が引きつった。
今日が湊とのデートじゃなければ、二つ返事でついて行くのに、そうはいかない。
初めに声を掛けられた時は、一緒に遊ぼうよなんて湊に言ったけれど、湊に「今日は誰とデートなの?」と言われてすぐに引き下がった。
今も湊は丁寧に断っていて、少し残念だ。
湊はいつも笑顔で、人当たりも良いから声も掛けられやすい。
「あー……デートコース間違えたかなぁ」
再び湊は空を仰いだ。確かに、度々声を掛けられると、デートに集中できなさそうだ。モテるのも苦労するんだな、と純一は完全に他人事のように思う。
そして、純一はある事に気付いてしまった。
やはり湊に対しては、かっこいいとは思うけど、モテる事には嫉妬してしまう。人としては好きだけど、友達以上の関係になることが想像できない。
「これ乗ったら場所変えるか? ……ってか、外にいる限り声は掛けられると思うけど」
「……純一って時々嬉しい事言うね」
何故今のが嬉しかったのか、純一にはよく分からなかった。
湊は理由を話してくれる。
「これが女子ならさ、嫉妬されてケンカするか、意地でもデートを遂行しようとするから」
「……なるほど。けど、それは女の子の性格がアレなんじゃない?」
湊はそうかなぁ? と笑う。モテるけれど、湊を尊重してくれる女の子にはまだ出会った事が無いようで、彼の中の女の子像はある意味偏ってるな、と思う。
「湊はかっこいいし、背も高いし優しいし、かなりの優良物件だから来る女の子も多いけど、ちゃんと探せばいい子もいると思うよ?」
「……付き合いたい子は目の前にいるんだけど」
そう言われて純一はしまった、と思った。これじゃあ、他の女の子を探せと言っているようなものだ。
純一は覚悟を決める。
「……ごめん。湊のこと好きだけど、友達以上にはなりそうにない」
困った顔で湊を見ると、彼は苦笑した。最近この顔をよく見るなぁ、と思う。
「そんな気はしてたけど……このタイミングで言われるとは思ってなかったなぁ」
「そんな気してたのか?」
うん、と湊は頷く。
「今日は純一、何だかリラックスしてるでしょ? と言うか司がいないから、のびのびしてる?」
「……そうなのか?」
純一は、自分の事なのにハテナばかりが浮かんだ。確かに、今日は突然仕掛けてくる司がいないし、その点は安心しているけれど。
「だって司は、いつ何を仕掛けてくるか分からないし……」
「そうだね。そういう意味で、俺は警戒されてないんだなって」
「え、だって湊、そういう事しないだろ?」
近くに司がいるならともかく、彼をからかう意味で純一をいじることはあっても、それ以外は優しいのだ、警戒はしないだろう。
「しないけど……。だからこの間、司に仕掛けられたときは、乗った自分が許せなくて」
この間と言われ、純一はいつだったかなと振り返る。あの時は珍しく司が湊を挑発していた。
ネタにされた純一としてはいい迷惑だが、あの時何故か勃起してしまった事まで思い出し、慌てて打ち消す。
「司のことは、どう思ってるの?」
「どうって……」
純一は言葉に詰まる。友達として、変わっているけど面白い奴だと思う。
「面白い奴だとは思うけど……」
純一自身も司に対しては、本当のところどう思っているのか分からない。
どう答えるか考えていると、湊はごめん、と謝った。
「デート中は楽しく過ごすつもりだったのに、テンション下がっちゃったね」
「いや、それを言うなら俺がきっかけになったんだし。……やっぱりこれ乗って帰るか」
「……そうだね」
純一の提案に湊は頷いた。
それからはいつものように他愛もない話をして、アトラクションに乗ってずぶ濡れになり、二人して大笑いしながら帰る。
純一の家まで湊に送ってもらい、別れ際に湊が「ねぇ」と話しかけてくる。
「純一のこと、好きでいてもいい?」
「なんだそれ? 人にどうこう言われて、好きになったり嫌ったりするのか、湊は」
純一がそう言うと、湊はそういう所、すごく好きだなぁ、と笑った。
「司に飽きたら俺の事思い出してよ」
「何でそこで司が出てくるんだよ」
湊はどうやら、純一は司の事を好きだと思っているらしい。でも、根拠なしにそう言った訳でもないようだ。
「俺、相手がいる人ばっかり好きになるって言ったでしょ?」
「……」
純一が根拠ってそれか、と開いた口が塞がらないでいると、じゃーね、また明日、と湊は明るく去っていく。
(ごめんな湊)
司がどうこうというのは置いといて、気持ちに答えられない事に申し訳なく思った。
すごく照れていたけど、改めて告白してきた湊だからこそ、ちゃんと向き合おうと思ったのだ。
純一は大きく息を吐いた。吐き切るまで吐いて、その場にしゃがみ込む。
(湊と約束した手前、司ともデートしないと行けないしな……)
どうしたものか、と考えていると「純一?」と声を掛けられた。
そこにいたのは哲朗だ。
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