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第25話

「死にそうな顔してたから、何があったかと思ったら」 哲朗は純一の部屋に入ると、床に腰を下ろす。 純一はローテーブルに飲み物を置くと、そのままベッドに突っ伏した。 「で? 何があった」 哲朗は置かれたお茶を飲む。純一は、哲朗がタイミング良く来てくれて本当に良かった、と思った。 「哲朗~」 足をバタバタさせてもがくと、早く話せ、と哲朗が促す。 「……今日、湊とデートしてきた。そして断ってきた」 結果を端的に話すと、哲朗はそれで? と冷静に言う。 「それで、お前が悶えている理由は何だ?」 「分からない……」 純一は起き上がる。 「お前の悩みのうち一つは解決したじゃないか。後は司を誘ってデートするだけだろ?」 そうなんだけど、と純一はため息をつく。 自分からデートに誘うのは、何だか緊張してしまうのだ。 「純一、スマホ貸して」 「ん? はい……」 純一は何も考えずにスマホを渡した。受け取った哲朗は、純一のスマホを勝手に操作して、純一に戻す。 「って、何勝手に電話掛けてんだよっ」 画面に司の名前を見て、慌てて耳にあてた。 「もしもし?」 『純一? どうした?』 純一の心臓が跳ね上がる。早くも心臓が飛び出てきそうだ。 「や、あの……今電話大丈夫か?」 『ああ』 話しながら、どう会話を繋げようか考えて、思いつかずにテンパる。 「ら、来週末とか暇か? どっか遊びに行こうよ」 『分かった。どこへ行く?』 純一は何も準備無しに、電話を掛けさせた哲朗を睨む。話題をストックしておかないと、司とは会話が続かないのは、何度も経験しているからだ。 「どこ? うーん、どこに行こう……」 『……映画とかはどうだ?』 「映画? あ、うん、いいね」 じゃあ詳しくはまた明日決めよう、と純一は通話を切る。すると一気に力が抜けた。 「誘えたじゃん」 「哲朗! お前急に何するんだよ!?」 純一は怒鳴るけれど、哲朗は笑った。 「だって、うだうだ悩むより行動した方が早いって」 「そうだけど! そうだけど、心の準備ってものがあるだろ!」 何も言わずに電話を掛けるのは卑怯だ、と純一は喚いた。 「何でそんなに緊張してたんだよ。電話だってあっという間で、悩んでた時間の方が長かったぞ」 「う……」 純一は固まる。理由は分からないけど、司とその手の話をするのはどうしても気が引けた。このまま友達関係でいられないのかな、なんて思ってたりする。 「今のままが居心地いいんだろうけど、純一が何もしなかったら、そのうち友達としてもいられなくなるだろうよ」 哲朗に言われ、以前司に言われたセリフを思い出す。 『純一がハッキリ断ってくれなければ、遅かれ早かれ、今みたいな事がまた起こるだろう』 司はいつまでも待つと言った。けれど、湊には返事をして、司にはしないのはおかしいし、湊が振られた事を司に話す事も考えられる。どの道、早く行動した方が良いのは明らかだ。 (初めて俺に告白してくれた奴だし) この際性別は考えない。友達も少なかった純一にとって、司の告白はある意味特別だった。だから気になるのかもしれない。 「哲朗、その通りだな。ありがとう、後は自分で頑張ってみるよ」 「やる気が出たようでなにより」 そう言うと、哲朗は立ち上がり、頑張れよ、と帰って行った。

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