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第27話
週明け、司は学校に来なかった。
それが分かったのは昼休み。湊といつものように昼ご飯を食べようと、司を迎えに行った時だった。
「早稲田くん? 今日は来てないよ?」
純一は湊と顔を見合わせる。純一としては顔を合わせなくて若干ホッとした。
「風邪でも引いたのかな?」
「さあな」
純一は持ってきたコンビニパンを開けて食べた。司の弁当に慣れていた舌は、久しぶりのコンビニパンを嫌がった。
「……美味しくない」
「何で今日はお昼ご飯持ってきてるの?」
「別に……」
湊の鋭い質問に、純一は答えず誤魔化す。
「純一~?」
「あひゃひゃ、ひたい、ひたいっ」
湊は純一の頬をつねって自分の方へ顔を向けさせた。
「何するんだよっ、良いだろ、たまにはパン食べても!」
「司と何かあったんでしょ?」
じゃなきゃ、あんなに美味しそうに食べていた司の弁当を、断る訳がない、と湊は言う。図星な湊の意見に、純一はヤケになって答えた。
「ケンカしたんだよっ」
すると湊は驚いた顔をした。何でまた、と聞いてくる。
「言いたくない。もういいだろ、この話は」
そう言いながら、その時の出来事を思い出し、ムカムカしてきた。ムカつくから、学校に来てないならその方が都合が良い。
しかし、次の日も、その次の日も、司は学校に来なかった。
ただの風邪ならこんなに休むだろうか? インフルエンザの季節でもないし、料理好きな司が食中毒ってのも想像しにくい。
「純一、ちょっと話がある」
帰り際、純一は湊に呼ばれた。いつも一緒に駅まで行くのに、改めて呼ぶのはどういう事だろう? と少し緊張した。
「司、入院してるっぽい」
「え? 入院?」
全く予想していなかったワードが出てきて、純一の心臓は跳ねた。湊は頷く。
「俺、司にメッセージ送ってみたんだけど、見てる様子が無いんだよね。そしたら司のクラスの子が入院してるらしいって噂してて」
(何で……?)
突然どうしたと言うのだろう、顔を合わせずに済んだと思っていたらそんな噂を聞いて、一気に彼のことが心配になる。
二人は校舎を出ると、何やら校門辺りが騒がしい。バイクが耳障りな音を立てて、周辺の道路を走っているようだ。
純一は嫌な予感がした。でも、いやまさか、と思い直す。
「あー! 純一クンはっけーん!」
やっぱり、と純一は内心舌打ちする。バイクに二人乗りでやってきたのは安藤だ。
「え? 何、知り合い?」
湊が聞いてくる。純一は司の時のようにスルーした。
「純一クン、一緒に遊ぼー」
「嫌だ」
純一は足を速める。しかし向こうはバイクだ、安藤はまたニヤニヤしながら付いてきた。
「なに、随分イケメンなお友達もできたんだね。俺安藤、純一クンとは中学からの『親友』でーす」
取り巻きがどっと笑う。
「……何? このムカつくヤツら」
純一は無視してやり過ごそうとしたのに、湊が余計な事を言う。思わず彼を見ると、明らかに安藤を軽蔑した顔で見ていた。
「あれ? 純一クン、高校生になって随分ガラの悪いお友達と付き合うようになったんだねぇ」
(ガラの悪いのはそっちだろ)
純一は思うけれど、言わずに留めておく。
「この間の……気前のいいお友達? アイツもなんかムカつく事言ってきたから可愛がってあげたのよ。お前もそうなりたいか? ああ?」
それを聞いて、純一は司が入院した理由を瞬時に安藤と結びつけた。
「まさか、司を殴ったんじゃないだろうな?」
純一はスルーすると決めたのに、安藤に問いかけていた。
「現金出して、これやるから金輪際純一に手を出すなって。何で俺らが指図されなきゃいけねぇのよ?」
「てめぇ……っ!」
反射的に、純一は安藤に殴り掛かろうとした。しかし湊に止められる。
「安藤くん? それ普通に暴行っていう犯罪だよ?」
「……あ?」
安藤の顔色が変わった。バイクから降りて、湊の前まで来る。純一は、何でわざわざ挑発するような事言うんだ、と思って湊は関係ない、と言ったが、安藤はスルーだ。
「お前ムカつくなぁ。やるか?」
「別に良いけど? ここじゃ目立つし移動する?」
「おい湊!」
「純一、俺この人たちと遊んでくるから、先帰ってて」
湊はいつものように手をひらひら振って、人通りの少ない道へと歩いていく。
大変な事になった、と純一は慌てた。とりあえず警察に通報しつつ、様子を伺う事にする。
向かった先は空き地だ。
純一は物陰から見守り、友達が絡まれてるという体で通報する。
「さぁ、やろうか」
湊が声を掛けると同時に、取り巻きの一人が襲いかかる。危ない、と純一はハラハラするけども、湊は相手の突きの勢いを利用して投げ飛ばした。
「言っておくけど、俺は強いよ? それに、君たちの悪行を洗いざらい出して、社会的に抹殺する事もできる。それでもやる?」
「なに気取った事言ってんだごらぁ!」
まんまと挑発に乗った取り巻きたちが、一斉に飛びかかった。しかし、素早く後ろにステップを踏んだ湊は、一人ずつ足を引っ掛けては投げ飛ばし、次々と鎮めていく。
「あ、安藤さん、コイツ強いです、ガチのヤツです!」
地面に叩きつけられた取り巻きは、しばらく動けないくらいに痛がっている。見事な動きは、多分柔道の技だろう。
「安藤くん? 言っとくけど、俺の父は警察関係者だからね。俺の周りに何かしようとか、考えない方が良いよ」
え、と純一は驚く。しかし、安藤には関係無いようだ。
「所詮親父の権力を盾にしてるだけじゃねぇか!」
安藤は地面を蹴った。純一はその手に刃物を持っている事に気付き、思わず湊! と叫ぶ。
でも、やはり勝負は一瞬だった。湊は安藤のナイフを持った手を捻りあげ、ナイフを落とさせる。その上で素早く体勢を変え、安藤を投げ飛ばす。
「……っ!」
思い切り背中を打ち付けた安藤は、しばらく息ができないようだった、声にならない悲鳴を上げ、地面でのたうち回っている。
すると、タイミング良く警察が来た。純一はこっちです! と叫ぶ前に手を引かれる。
「行くよ、バレると面倒だから」
「って、おい!」
色々聞きたいことはあるけれど、とりあえずは面倒事にならないようにするのが最優先だ。
純一は今までにないくらい一生懸命走った。
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