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第28話

「ちょ、っと、湊……色々聞きたいこと、あるんだけど」 大回りして学校に戻ってくると、純一は芝生の上に倒れ込んだ。湊も隣に座る。 息が切れて上手く話せないが、それでも続ける。 「あんなに強いなんて、聞いて、ないぞ」 湊は髪をかきあげた。彼も息は上がっているけれど、純一の比じゃない。 「そりゃあ、言ってないからね」 そう言って笑う湊は、やっぱりかっこよかった。 「俺の父は警視監なの。ケンカの相手したなんてバレたら厄介な事になるからね。色々期待されて、必要なスキルは身に付けさせられたから」 「ああ、なるほど……」 純一は納得がいく。成績が良いのもその一つなんだろうな、と思う。 湊はポケットからスマホを出した。何か着信があったらしい。 「…………純一、司から返信来た」 「何て!?」 純一は素早く起き上がる。 湊は文を読んだが、純一には教えてくれなかった。 「何だよ、教えろよ」 純一の気迫に負けたのか、湊はスマホを見せてくれる。 司の返信は、湊の「純一とケンカでもしたの?」という文面に対してのものだった。 『俺が純一を怒らせてしまったようだ。安藤って変な奴に絡まれたから、また純一の所に来ると思う』 その通りだよ、と純一は思った。しかし最後の一文に、ドキリとしてしまう。 『だから守ってやってくれ。これは湊にしか頼めない』 純一は自分のスマホを取り出すと、司に電話を掛ける。 四コール目で出た司に、純一は思い切り大きな声で言ってやった。 「俺だって男なんだ、守られてばっかりじゃムカつくんだよ!」 『純一……』 電話口の司は、やはり心なしか元気が無いように聞こえる。 「お前今どこにいるんだ!?」 「ちょっと純一、司は今怪我人……」 隣で落ち着いて、と湊の声がするけども構うもんか、と声のトーンは変えない。 司はやはり入院していたらしい、病院名を教えてくれる。 「今さっき湊が安藤を蹴散らせたとこだよ、お前の思惑通りな! そっちに行くから待ってろ!」 純一は通話を切って荷物を持つ。湊にじゃあな! と言って走り出した。 色々聞きたいことや言いたいことはある。会ったらそれらを全部ぶつけてやろう、そんな気持ちで病院に着くと、できるだけ早く歩いて病室の前に着いた。 (早稲田司様……ここだな) 純一は一つ深呼吸をする。ノックをすると返事があった。 ドアを開けると、司は彼らしく読書をしていた。 しかし、彼の顔には痣や切り傷があり、袖から覗く包帯を見たら、痛々しくてそばに駆け寄った。 「純一……」 「このバカ! あんな連中無視すればいいのに、無茶しやがって!」 純一は、言おうと思っていた言葉が、それ以降出てこない事に気付いた。 その代わり、視界がどんどん揺れていく。 「純一……泣いてるのか?」 「泣いてない!」 とりあえず、思ったより元気で、無事で良かった、という言葉も出ず、ベッド脇に膝をついた。 長い指が、純一の頭を撫でた。腕が痛いのか少しぎこちない動きだったが、純一を安心させるのには充分だった。 「悪かった。心配掛けた」 我慢できずに零れた純一の涙を、司がそっと拭う。 いつもなら怒る司の行動だけど、純一はそれどころじゃない。 「何であんな無茶したんだ。返り討ちになるとか思わなかったのか?」 「そこまで考えていなかった。今考えると、頭に血が上っていたとしか考えられない」 「だから、何でそこまで……」 純一は司を見上げる。少し切れ長の目が、真っ直ぐ純一を見ていた。 「純一が好きだから」 純一は、顔が熱くなるのを自覚する。ちょっと待て、この反応はおかしいぞ、と思うけれど、嬉しいと思った自分を止めることはできなかった。 「司、俺、まだお前の事ちゃんと好きかどうか分からないけど、お前の気持ちは嬉しいと思うよ」 「……そうか」 司はベッドに凭れて目を閉じる。少ししんどいのかな、と純一は立ち上がる。 「ごめん、しんどいよな?」 「ああ。実は内蔵に少しダメージを受けてるんだ。だから安静にする意味で入院してる」 そうだったのか、と純一は身体に障るといけないし帰ろうとする。しかし、その腕を掴まれた。 「何故帰る?」 「何でって……俺がいたら休めないだろ?」 「いい。少し退屈してたんだ、話を聞かせてくれ」 目を閉じたまま、司は喋る。腕を掴む力は強くないけれど、純一は帰ることができなかった。 そして、何を話してたっけ、と振り返る。そしたら自分がとても恥ずかしい事を言っていたことを思い出した。 「あ、いや、話はそれだけだし……」 純一はまた顔が熱くなった。 「……湊は?」 「え? あ、置いてきたけど……」 純一は答えながら、どうして湊が出てくるのだろう、と思う。 すると司は、そうじゃない、と目を開けた。 「湊に返事は、したのか?」 純一はそっちか、と言葉に詰まる。純一が黙っていると、司はじゃあ、と言葉を続けた。 「俺とお試しで付き合ってくれ」 「今の流れで、どうしてそうなるんだよっ」 「違うのか?」 「いや、合ってるけど!」 勢いで言ったものの、純一は自分の言った言葉にハッとした。 先程の比ではなく、顔が熱くなり汗がどっと出てくる。 「あ、いや、今のは違くて……っ」 「何が違うんだ?」 「や、だから……っ」 今のは引っ掛けだ、とか言いたいけれど、テンパっていて言葉が出てこない。 「悪い、お前が可愛いからつい」 司は、更に追い討ちをかけるように純一を褒める。 「かわ……可愛いって、俺男だから」 「純一、キスしていいか?」 相変わらず人の話を聞いているのか聞いていないのか。純一は断ると、司は案外あっさりとそうか、と引いた。

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