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第39話
夏休み最終日。やっぱりいつも通り純一の家で司とまったりしていた。
「あー……夏休みも終わりかぁ。でも、今年は課題を早く終わらせたおかげで、泣かない夏休み最終日は初めてだよ」
「……そうか」
純一は漫画を読む司を見つめる。
基本、静かに過ごす事が好きらしい司。本を読んでいる姿を見るのは、嫌いじゃないな、と純一は思う。
「そう言えば、早速ねーちゃん、事務所に連絡先したんだって?」
「ああ、純一のお姉さんだと伝えたら、ウキウキで会ってみたいって言ってたな」
行動は早い姉の事だ、信じられないが仕事はできるようなので、上手くいくと良いなと思う。
「……純一」
「なに?」
「昨日は何がダメだったのか、教えてくれないか?」
純一は一瞬、なんの事か分からなかった。それが昨日、イチャついていた途中でダメだと言った事だと気付き、あの時の司を思い出して顔が熱くなった。
「あ、いや……あれは完全に俺の問題」
司が何かした訳じゃないよ、と言うと、それでも教えて欲しいと司は食い下がる。
「こう言うと引かれるかもしれないが……今でも純一としたいと思っている。だが、不安要素は取っておきたい」
「……っ」
ストレートな司の言葉は、いつも純一の心に刺さる。
(それに、今でもしたいって……どれだけだよ……涼しい顔してムッツリめ)
純一は照れ隠しにそんな事を思うけど、自分の意見を言うのは躊躇 われた。
「いつもストレートに言えるお前と違って、俺はそんなに簡単に話せないんだよ」
自分の思ったことを、言葉にできる司が好きだと思ったのは、自分がそうできないからだ。
「……分かった。今日は帰る」
そう言って、司は漫画を本棚にしまうと、本当に帰る準備をし始めた。純一はその行動にイラッとしてしまい、言わなくてもいい事を言ってしまう。
「やれないと分かったら帰るんだ? そのために家へ来てたのか?」
「……」
しかし、司は純一の言葉に乗らず、無言で部屋を出ていった。
◇◇
次の日、新学期が始まった。
「ちょっと、二人共何かあった?」
始業式が終わった帰り道、湊がいつもと違う雰囲気に耐えかねたように言った。
今は湊の手前、司も一緒にいるけれど、純一は彼とは口を利いていない。
「別に」
純一が答える。
「別にって雰囲気じゃないじゃん」
湊は困ったように眉を下げた。
「早く仲直りしてよ。俺が気まずいじゃない」
「……」
純一はちらりと司を見る。彼は純一の視線に気付いていないのか、違う方向を見ていた。
(湊に相談する訳にも行かないしなぁ)
内容が内容なだけに、湊には相談できない。
純一は、やはりあいつに相談するか、とスマホを取り出した。
◇◇
「で、俺なわけね」
哲朗は純一の部屋に入ると、適当に腰を下ろした。
純一もそばに座ると、どうしたら良い?と聞いてみる。
「そりゃあお前……お前が正直に話せば丸く収まる話じゃないのか?」
「だって、バカにされたら嫌だし」
「何でバカにするんだよ」
良いか、と哲朗は丁寧に説明した。
「司自身が、無理強いしたくない、いつでも言えって言ってくれてんだろ? それに甘えなくてどうする」
純一は俯いた。何か言おうとする時に、チラつくのは安藤のニヤついた顔と、純一をバカにする声だ。彼らはいつも、純一の声をまともに聞かず、自分の要求のみ押し通してきた。だから、いざと言う時に意見を飲み込んで、逃げる癖がついてしまっていた。
「二人に告白された時もそう、ズルズルと返事を引き伸ばしていたじゃないか。結局後に引けない状況になってやっと言ったけど」
「う……」
「お前がためらう時は、それだけ大事な事だからだろ?」
そう、だから司は教えてくれと言ってきたし、強引に話を進めたりしなかった。司の方がよっぽど誠実に付き合ってくれているのだ。
「でも……」
「うん、怖いよな。本音を言うの」
眉を下げた純一に、哲朗は珍しく優しい声を掛ける。
中学生の頃は自分に嘘をついて、どうにか安藤たちの機嫌を損ねないように頑張っていた。それを知ってるからこその哲朗の言葉は、優しくて心に沁みた。
「それも全部話してしまえ。あいつの事だから多少は勘づいてると思うけど」
哲朗は、純一がこんな風に悩むって事は、成長に必要な事だからだと思うぞ、とエールをくれた。
純一はその場で司に電話を掛けた。今からでも会って話したい。
すぐに電話に出た司は、いつも通りの声だ。
「司? あの、今から会えるかな?」
「ああ、ちょうど良かった。俺もそう思って純一の家の近くにいる」
ドクン、と心臓が高鳴る。
「そうなんだ。待ってるから気を付けて来いよ」
純一は通話を切ると、哲郎に司の話をした。
「心配するだけ損だったな。ホントに愛されてるよ、お前。じゃあ、俺は帰るわ」
「ありがとう、哲朗」
哲朗は手をひら、と振って家を出ていった。見送ったついでに、外で司を待っていると、すぐに彼の姿が見える。
純一の部屋に司を通すと、二人でベッドに腰掛けた。
「司、わざわざ来てくれてありがとう。ってか、ホントにいつも来てもらってて、申し訳ないんだけど」
「いや……」
司は目を伏せた。純一は、その顔が好きだな、と思う。
「俺さ……」
純一は哲朗に言われた通り、話すことにする。
「会ったことあるから分かると思うけど、中学生の頃は安藤たちに絡まれる毎日だったの。アイツらに反発すること無く、機嫌だけ伺って。そしたら肝心な時に逃げ出す癖がついちゃって」
「……そうか」
たった一言、司はそれで受け入れてくれた。
「だから今も逃げたいと思ってるし、本音を言うのが怖いと思ってる」
でも、こうして司に会ってるという事は、ちゃんと話したいと思ってるんだ、と純一は続けた。
「司に嫌われるのが怖いよ。……昨日の質問の答えだけど」
純一は司に伝えた。司の股間を意識した途端、その大きさと、男なんだというのを強く感じ、戸惑ってしまった事を。
「冷静になって考えたら、純一の事情も至極当然だ。俺の方こそ、もっと段階を踏むべきだった。すまない」
司も司で、色々と考えていたようだ。純一はきちんと伝えられた事に安堵する。
「すぐに逃げちゃう俺だけど、それでも付き合ってくれる?」
正直、まだ男同士で付き合うって、よく分かっていないのかもしれないけれど、純一は司と一緒にいたいと思っている。
「もちろん。その時は俺も一緒に悩もう」
相変わらずの無表情だけど、頼もしいな、と純一は笑った。
「あー……でも俺、ほだされてる感すごいする」
「そうなのか?」
入学式の時は、彼女欲しいの一心だったのに。
自分に向けられる敵意に敏感だった純一は、好意にも敏感だった。
「司って、何考えてるか分からないって思ってたけど、必要あればちゃんと伝えるよな。俺が好きなの、そういうところだと思う」
純一が司を見ると、彼は目を伏せた。よくその顔するな、と聞いてみる。
「……そうか?」
「うん。何を思ってるのかなって」
「……今は、嬉しいと思っていただけだ」
「うーん、やっぱり表情に出なくて分からん」
純一は後ろに倒れてベッドに寝転がった。今言っていた事と違うじゃないか、と司に突っ込まれる。
すると、司が純一の上に来た。早速この流れか、と純一は少し身構える。
「あ、あのっ…………するの?」
「嫌ならやめておくが」
そう言って、司は軽くキスをしてくる。
「確認したいんだけど! …………俺が女役?」
純一はそう言うと、司は少し考えた後、「悪いようにはしない」とだけ言った。
「ちょっと待て、どういう意味……っ」
純一が抗議しようとしたが、その唇は司ので塞がれてしまった。しかもねっとりと唇を舐められて、悲鳴のような声を上げてしまう。
「う、ん……っ」
同時にシャツの中に手が入ってくる。くすぐったさと気持ちよさの微妙な力加減で、脇腹を撫でられ思わず身体に力が入ってしまった。
「ちょ、と、ちょっと司……」
純一はモゾモゾと身をよじる。
「何だ」
「あの、前より激しい気がするんだけど……」
ついていけない、と純一は呟いた。司も初心者のはずなのに、なんでこうも余裕があるのか。
「分かった。じゃあゆっくりする」
「よ、よろしくお願いします……」
改めてそう言われると恥ずかしいけど、仕方がない。司の顔が再び近付いてきて、優しいキスをされた。
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