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第41話
次の日、純一はいつものように登校した。
「あ、純一おはよー」
先に来ていた湊が、いつものように純一の所へやってくる。いつもなら机の周辺に立って、話をするけれど今日は違った。
「純一、話があるんだ、ちょっとこっち来て」
湊は純一の肩に腕を回し、教室を出ようとする。戸惑いながらも純一はついて行くと、トイレへ連れてかれた。
「こんな所で何の話だよ?」
不思議に思って湊を見上げると、湊は自分の首筋を人差し指でトントン、と差す。
「気付いてないの? 鏡で見てごらん」
何だ? と鏡を見ると、湊が示した場所に、赤黒い歯型が付いていた。
「……っ!!」
純一は思わずその痕を手で隠す。
(そういや昨日、ちょいちょい噛まれたな……あの野郎!)
純一が心の中で司を呪っていると、湊が「襟で隠せそうかな」とか言っている。まだ暑いこんな日に、きっちりボタンをとめなきゃいけないとか拷問だ、と純一は泣きそうになった。
「教えてくれてサンキューな、湊」
ボタンを一番上までとめて、また鏡で確認するけれど、隠しきれていない。絶妙な位置に付けられた痕は、偶然なのかわざとなのか。
「……誰に付けられたかは聞かないでおくけど、こういう形での、俺のもの宣言は腹立つなぁ」
湊は笑いながらそんな事を言う。純一は恥ずかしさでいたたまれなくなり、乾いた笑い声を上げるしかない。
教室に戻ると、司も丁度純一たちのクラスに来た所だった。彼は相変わらずおはよう、と表情も変えずに言ってくる。純一は無視した。
「おはよう司。純一とは仲直りできたみたいだね」
「……ああ、でもまた怒ってるな。どうしてだ?」
後半は純一に向けた言葉だったが、純一は反応するまい、とそっぽを向く。湊は勝手にやってくれという様子だ。
(これ、痕が消えるまでこれで過ごせって言うのかよ)
純一は司を睨む。すると、司はしれっと本を開いた。
(……っ! コイツわざとだな!!)
よくもいけしゃあしゃあと、どうしてだ、なんて言えたものだと、純一はまたそっぽ向いた。
その後、湊からハワイ旅行のお土産を貰い、またいつもの日常が始まる。
思えば、司と湊のおかげで、今年は充実した夏休みになったな、と純一は思った。哲朗以外の友達と過ごしたのは初めてで、とても楽しかった。
◇◇
その日の帰り、いつものように三人で駅へ向かう。珍しく司は本ではなく、スマホを眺めていた。
「授業始まると日常がこっちなんだって、思い知らされるよ」
湊が呟く。純一も頷いた。
「でも湊、お前はほぼ国外にいたじゃん」
純一はそう言うと、「毎年の事だから」と苦笑した。
「でも来年は、もう少し純一たちと遊びたいな」
「そうだなっ。旅行とかも行ってみたい」
純一は旅先の候補をいくつか挙げる。湊も良いねぇ、と話に乗ってきた。
「というか、冬休みとかでも良いんじゃない?」
「そうだな。また決めよ」
そんな話で盛り上がっていた時、純一のスマホが震える。何だろう、と見てみると、司からSNSでメッセージが届いていた。
隣にいるのに、何故わざわざメッセージなのか。純一は不思議に思いながらも確認する。
『今日この後、家に来ないか?』
何だろう、と純一は思う。そのまま疑問を返信しようかと思ったけど、湊と別れた後で直接聞こう、とスマホをしまった。
湊は駅近くのマンションなので、駅で別れる。純一は早速司に聞いた。
「さっきの何だ? わざわざメッセージでよこして」
「別に……お家デートのお誘いだ」
司は本をしまう。湊といる時は、本を読みながら一緒にいる事が多いな、と最近になって分かってきた。
「お、お家デートって何するんだ?」
「……本を読んだり話をしたりじゃないか?」
「俺んちにいる時と変わらないじゃん」
純一は笑う。司は「あと……」と言葉を続けた。
「イチャイチャしたり……だな」
珍しく家に誘ったかと思えば、目的はそれかよ、と純一は顔が熱くなる。
「純一、俺は純一と付き合い始めてから、その事ばかり考えている。早くこのモヤモヤを解決したい」
「お前が感じてるのは、モヤモヤじゃなくてムラムラだろ」
純一は顔が熱いまま、そっぽを向いた。湊が、司をムッツリだと評するのが分かった気がする。
「そう言えば、お前首に噛み付くなよ。痕を隠すの大変なんだから」
今朝湊が教えてくれなかったら、純一は更に恥ずかしい思いをしたし、今も制服が暑くて早く脱ぎたい。
「……………………分かった」
ホントに分かったのかなぁ、と純一はため息をついた。
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