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7.気付くも何も

「そうだったのか。今朝の状態を見て、気が付いているものと思っていた。驚かせてしまったな。」  なんだけど、どうも宮代はその設定を守るつもりらしい。  いや待てと、本当は止めるべきだった。止め損ったのは、それよりも気になる単語があるからだった。 「今朝……?」 「体調が優れなかっただろう。魔力の調整が不十分な所為で力が漏れてしまっていてな。心身に不調をきたす場合があるのだ。鴇坂のように魔力を感知出来る者だと特に。」  出だしの言葉は、どきりとした。続いた理屈は意味が分からなかった。しかも、ただでさえ魔法だなんだってのを信じてないのに、何でそこにオレの名前を混ぜてんだ。 「しかし、あれ程までに影響を受けているとは思わなかった。随分と具合が悪そうだったので、すれ違った際に対処はさせてもらったが……。不快な思いをさせてすまなかったな。」 「は? 何したって?」  何を言っているのか分からなくて聞き返す。今度も宮代は、当たり前みたいにさらりと答えた。 「術を用いて、悪影響を及ぼす魔力を遮った。」  大勢の前で口にすべき事ではないと思って教室での会話は避けたが問題なかったか? って聞かれた気がするけど、それどころじゃない。何だこれ。どうなってんだ。  術っていうのは、魔法って事だろう。悪影響を及ぼす魔力? は、意味分かんねぇけど『こいつから何か良くないものが出てた』って事っぽい。だから魔法で防いだと。そしたら、オレがヤバい事になってたのが治った。らしい。  え? って事は最近風邪っぽかったのも、同じ原因だったりすんの? それが当て嵌まるなら、今までオレが苦手だって思って来たのって全部『魔力とか人間じゃない奴等の所為』って事になるんじゃ────。 「……いや、ねーよ」  ないない。絶対ない。聞き慣れない事ばっか言うから一瞬真面目に考えたけど、自分で突っ込むくらい有り得ない。 「どうかしたのか?」  なのに目の前の奴は、何も気にしてないみたいにまた首を傾げる。  理解不能な話を次々ぶっ込まれ、覚悟を決めて滅茶苦茶に緊張しながら部屋に入れてからずっと張ってた糸が、ぶっつりと切れた。 「んな話、誰が信じるんだよ」 「何故信じられない?」 「何故じゃねえよ。信じないんだよ、普通は」 「……もしや、魔術的な知識がないのか?」  わざわざ「普通は」ってところを強調して言ってやったのに、こいつは空気が読めないのか頭悪いのか、非現実的な事を当たり前みたいに言いやがった。お陰で、ある訳ねえだろって返した言葉が、露骨に苛々していた。 「そうか……。では、どうすれば信じられる?」 「あ?」 「特別な知識は必要ではないが、信じられていた方が今後に役立つだろうからな。何でも良いぞ。『魔術は存在している』と、鴇坂が実感出来そうな事象を指定してくれ。大抵の事は実現できる。」  宗教の勧誘かよ、しかも詐欺紛いの。宮代の提案は、そのくらいこっちと噛み合ってない。自信満々、なのかは相変わらず分からないけれど、とんでもない事を淀みなく言い切った顔に、昔の同級生が重なった。  幽霊とか化け物が身近に居るって話す奴は、幼稚園を出て数ヶ月も経てばかなり少なくなる。それよりも関心を惹く物が生活の中に増えていく中で「よくお化け見ちゃうんだ。ほら、そこにも!」なんて敢えて言ってる奴は変わり者で、そんな変わり者がクラスに二人居た。  正直、驚いた。  オレにとって、それは言っちゃいけないことだったから。  まだバカで、〈あの感覚〉があるって思い込んでた頃のオレは『この子たちなら話ができるかも』って思って、二人と友だちになろうとした。  結局、二人は「ほんもの」でオレは「にせもの」だった。  今考えたら、引き返せるうちにああいう奴等と自分を比べられたのは良い機会だった。お陰で、オレは普通だって事が改めて分かったんだから。  薄暗い墓地より夕暮れに染まった神域が怖いのも。呪われた人形の話じゃなく、横を通り過ぎて行った人の内容もよく聞こえない話し声に吐き気がしたのも。  あの人が、あの橋が、あの家が、あの箱が。気持ち悪いのも煤けて見える気がするのも生温い臭いがするのも、全部気の所為だって分かる事が出来た。

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