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10.キャパオーバー

「このような理由から、悪意の籠った魔力の一部が制御しきれず漏れ出ている。それが、鴇坂の不調の原因だ。力を感知出来る者の一部は当てられてしまう事があるからな。」  そう締め括った宮代を、オレは完全に白けた目で見ていた。  さっき宮代にやらせた再現で『あの感覚はない』って確信がブチ壊されて、呆然としたままぽろっと訊いたっつーか、混乱してて藁にも縋る的な気持ちがあったにはあったけど。だからって、それ信じる程バカになってねぇよ。  オレと同じで『こいつは生理的に無理』ってなる奴が、今までも宮代の周りに多かったとしてだ。無自覚に嫌われる体質を受け入れられなくて、あり得ないものの所為だと思い込むっていうのは、なくは無いと思う。どうせなら自分は特別な人間なんだって事にしたいって気持ちも、まあ理解出来なくはない。ただ、その設定はねぇよ。 「今朝の事は、本当に申し訳ない。自身の能力だけで制御し切れなくなっているとは言え、あれ程の悪影響を及ぼす事は本来ないはずなんだ。力が大きく乱れた期間が長く続いた所為ではないかと推測している。」  どん引きしたまま天井を仰ぐ。あー、これ手遅れだ。  もうちょい普通なポジティブ変換で留めりゃ良いのに。とんでもなくファンタジーな設定使って、俺実は強ぇしヤバいんだよ、なんて慣れた様子で陰気にドヤるこいつは、悩んでるどころか完全に楽しんでる。持病って例えたのは失礼だった。本当に苦労してる人に申し訳ない。  つーか、オレだってお前みたいに訳分かんないストレス抱えてたけど、現実見て必死でやってんだよ。そっちに巻き込もうとしてんじゃねぇよ。 「そこで本題なのだが。」  けど、地面に埋まる勢いで好感度が落ちてるって事に気付かない宮代は、無表情でとんでもない提案をしやがった。 「魔力の制御と調整の手助けを、鴇坂に頼みたい。」 「……は?」 「俺の魔力は、人工的に集められた所為か特殊でな。相手の力量よりも、相性によって制御可能か否かが決まる。現在、最も適切な人物が鴇坂なのだ。現状を鑑みるに、改めて他の者を探した場合、その間に暴発し、危険な状態に陥る可能性が極めて高い。」  おい待てお前今なんつった。そうオレが言うよりも先に、宮代が深々と頭を下げる。 「頼む。鴇坂しか頼れる者が居ないのだ。」 「無理」  つーか嫌。言ってる事の意味は分かんなかったけど、拒否した方が良いって事ははっきり分かった。制御の手助けがどうとか、絶対に面倒臭い。 「急な頼みだという事は承知している。次の者を探せる状態になるまでの間だけでも良いんだ。」 「嫌だっつってんだろ」 「暴発が起これば、大規模な破壊や魔術的な汚染により、この国と近隣諸国は数十年単位で生き物が暮らせない程の被害を受ける可能性がある。人々の救済を充分に果たせずにいるだけでも問題だというのに、それに加えて、自らがそのような被害を出すわけにはいかないのだ。……頼む。」  畳み掛ける宮代の顔は浮かないよう表情を作っていた。その無神経さに、溜まりに溜まった感情がどぷりと垂れた。 「バっカじゃねえの。いつまで妄想語ってんだよ」 「まだ信じられないのか? ならば、納得いかなかった部分を教えてくれ。分かるように説明したい。」 「いらねーよ。バカだろ本当」 「いいか鴇坂。真剣に聞いてくれ。このままでは、多くの人間が……」 「あー。はいはい分かった分かった。国も人間もヤバいんだっけ? そりゃ大変だな」  後から考えると、たぶん、オレは自分が思ってるより疲れてた。  一日中気ぃ張って。嫌な奴の相手してトラウマ掘り起こされて。疲れてたし、何よりキレてた。もっとマシな状態だったら、適当に流してる。あと、同じようなごっこ遊びしたい奴に押し付ける方が楽だって気付けてた。  でも今は、目の前の奴の言ってる事も存在自体も、全部否定してやりたくて堪らなくなっていた。

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