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29.勉強は大切
「神よ! お助け!!」「昴ごめん!」
がばっ、と机に頭ぶつけそうな勢いで田崎と泉が頭を下げる。
「どした……」
オレとは被らなかった代わりに同じクラスになった二人は、何かとこっちに来る事が多かった。
普段の放課後なら部活に直行する田崎が飛び込む勢いで。あと、申し訳なさそうな顔した泉まで一緒ってなると、大体の予想は付く。
「今度の小テストの勉強を教えてください」
「あれ一年の復習だろ。休みの間の課題と範囲殆ど一緒だし」
「広さが! 広さがじんじょーじゃないんだよ!? 分かるでしょ!?」
まあ、確かに。一年の主要な部分のまとめって事で出題される分、小テストって名前の割に勉強しなきゃいけない範囲は広い。オレも、解けるだろうけど今日は復習に当てようと思ってたし。
予定外でも、教える事自体は勉強になるから問題はない。ただ、課題をちゃんと終わらせられてたら、そこまで困るようなものでもない気がする。
そう思って指摘すると、田崎は目を泳がせ、泉は遠くを見た。
「……やってねぇの?」
「宿題はね……うん、やったよ。でもやったって言うか、埋めた?」
「埋めた? ……は? 答え写したってこ──」
「いや! それはない! さすがにそこまでダメじゃない! ただ、ね?」
「埋めるので、いっぱいいっぱいだっだんだよなぁ……」
二人曰く、苦労しながらも課題自体はなんとかして終わらせた。
分からないところを解く為に教科書を見ながら進めて「ふんふん、成る程!」ともなった。
が、理解できたのはその場限りで、次から次へと詰め込む内に解き方や答えが流れて行っていた。
という事に今日、改めて問題を見返していて気付いた。……って事らしい。
「俺らの部、ちょっと成績があれだったらしくて……。部活の成果も大事だけど、学校的には勉強もうちょい頑張って欲しいって顧問が」
「小テストダメだったら、メンバーとか練習とか見直すかもって話しでさー」
それでか。いやでも、そしたら、割と真面目にやってやらないとまずくないか?
田崎と泉は結構真剣に部活をやってる。受験の事を考えたら今年が一打ち込める時期だし、だったら、勉強の事は気にせずやれた方が絶対良い。
ただ、二人とも「プロは目指してないんだ」とも言っていた。ってなると、進学先の選択肢を増やす為にある程度の学力は欲しい。一年の総まとめとして出された課題の理解度が低いっていうのはだいぶ。もしかすると二人が思っているよりも、切羽詰まってる状態じゃないか?
二人分をしっかり教えるってなると、自分の勉強しながらじゃカバーし切れない。
「なぁ、宮代」
って事でオレは、さくっとあいつを巻き込む事に決めた。どうせ元々一緒に復習する予定だったし。
「何だ?」
「今日、こいつらも一緒で良い?」
何でか知らないけど、田崎と泉が居る時は……って言うより学校では、宮代はオレにあまり近寄って来ない。この二人が苦手だとも、人付き合いが嫌いだとも言ってないから大丈夫だろうけど、最低限の気遣いとして聞いてみる。
「分かった。」
思ってたより軽いな。こっちの心配を他所に、呆気ないくらいいつものトーンで返した宮代にオレは、あとオレ以上に田崎と泉が驚いた。
「うっそ! 宮代ちゃんも来てくれんの!?」
「宮代、本当に良いの?」
「俺で良ければ。」
「勿論、って言うか凄い助かる。ありがとな」
「やばー。みんなでとか初じゃん! 終わったらご飯食べよ!」
「メインは飯じゃなくて勉強だからな田崎。忘れんなよ」
「わかってるってー」
本当に大丈夫かこいつ? 嬉しそうに体を揺らす田崎を疑いながらふと、疑問が一つ浮かんだ。
……宮代って、飯食ってたっけ?
バイト終わりで会う時は、夕飯食い終わってるな。ない時は、何となくそれより前に解散してるし、この後食いに行く? って誘った事もない。昼休みに居ないのはいつも。わざわざ探した事がなかった。つーか、食ってるどころかか飲んでる所すら見てなくないか?
思い返せば思い返す程、とんでもない事実がくっきりと形になる。何で今気付いた。こいつらの前で聞けるわけねぇのに。
それからちょこちょこ機会を窺ってはいたものの、このまま教室で勉強してても大丈夫そうか泉と確認してみたり、早速菓子を買いに行こうとする田崎を止めたりしている内に、完全にタイミングを逃していた。そもそも、当の宮代からヘルプっぽいものが全然飛んで来ない。
やっぱ駄目ってなったら自分で断るのか? いや、「人間じゃないから行けない」とか言われてもフォロー無理なんだけど。
うんうんと唸りながら問題を解く田崎と泉の前で、同じように難しい顔をしながら、オレは全然別の事を悩んでいた。
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