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44.遠出の結果と困った事 #2

「ああ、俺の性質に近い場所に関しては反応が出ていなかったので、確かだと思う。」 「それって、オレでも見分けられんの? 避けられんなら避けたい」 「知識である程度対応は出来るが、感覚に頼らざるを得ない場合も多い。それよりも『そうなった際に、状況を冷静に受け止める事』を心がけた方が良い。精神への作用が身体に影響を及ぼしているから、動揺しない事はとても重要だ。そのうえで『違和感があったら近付かない事』だな。」 「なんか、災害ん時の行動みたいだな。やっぱ、魔法的なの使えねぇと限界あるか」 「仕方がないさ。向き不向きはある。」 「人は避けらんねぇじゃん? それ心配なんだよな」 「然程気にせずとも大丈夫だ。何せ、人では到底負わぬ量の〈思い〉を詰めたものが、ここに在る。」  そう言って、遙は自分を指した。。 「この強さのものを抑えられる、という事を体が覚えれば、ある程度は他に対しても影響を受け辛くなる可能性が高い。人に向けられる程度の思いならば、殆ど気にならなくなるはずだ。」 「マジかよ」  それしか出ないのかって感じだけど、それ以外に言いようがない。強いて言うなら、そんな都合の良い事あんのかよ。もし遙に会ったばっかの頃に同じ話をされてたら、こっちの弱味を利用して騙して面倒見させようとしてる、って思ってた。 「念の為に付け加えておくが、だからずっと協力してくれという話ではないからな? 俺に対して耐性が付くのが早かったから、他に対しても然程期間を要さずにそうなるはずだ。」 「大丈夫、それは分かってる」  いつまで協力するかなんて決めてない。こんなおまけが付いてくれるなら、有り難いのはこっちの方だ。 「ただ、残念ながら今すぐに治す事は出来ない。原因が判明した事で客観的な対応が出来、それが影響の受け辛さには繋がると思うが、しばらく向き合い続けなければならない問題だという点には、変わりがない。期待を裏切ってしまって申し訳ない。」 「謝んなよ。原因は分かんねぇ、対処も出来てんのか微妙。っていうのと比べたら、雲泥の差だろ」 「すまない。だが、そう感じて貰えたのなら有難い。」 「本当だって。ありがとな」  感謝の言葉に嘘はない。何とかなりそうじゃん? って希望を持てる日が来るなんて思っていなかったんだから、それだけで未来は相当に明るくなった。  気持ちが伝わったのか、それならば良かったと言う遙の顔から緊張が解ける。 「検証の結果は以上だが、何か疑問や質問はあるか?」 「そうだな……」  遙の出した結論が本当に合っているかどうかは、実際のところオレには分からない。  ただそう言われてみれば、十一の時に酷い目に遭った場所は学業系の祈願で滅茶苦茶有名な所だったし、大叔母は羨望と同じだけの恨みを買っている人だったらしい。  遙と出かけた日に一番最初に無理だって思った所も「他で駄目だった願いも、ここなら」って来る人が居る程の評判だと、後から調べて知った。  どんな場所や物や人にだって何某かの〈思い〉が向けられる。多ければ多い程、強ければ強い程影響力が大きくなるっていうのは、何となく想像出来る。  つーか、どう見ても人間にしか見えない奴のエネルギーを全部賄えてるって考えたら、そりゃ、何か起こりもするよなって不思議と腑に落ちた。  何にせよ、感情や願望が人に及ぼす影響は大きい。 「原因っつーか原理っつーかが分かったわけだけど、上手い抑え込み方とか、影響受け辛くする何かとかって、やっぱ覚えられないもん? あと、お前の役に立ちそうなやつとか」 「出来なくはないが、難しいな。優れた受信機であるからと言って、優れた発信器であるわけではないと言おうか……。それよりも、平静を保つ事や対処出来ると強く思い続けられるようにした方が簡単だし、日常生活を送る程度なら、それで解決する問題も多いと思うぞ?  俺の方も相手の技量は然程問わないしな。」  だが挑戦してみたいならば手解きしよう、って遙は言ってくれたけど断らせて貰った。  ここまで聞いてみても普通に生活出来るレベルで良いとしか思えないし、遙にとっても必要じゃないなら、覚えなきゃいけない理由がない。 「ん。それ分かれば充分だわ」 「何か思い付いたら、いつでも聞いてくれ。」  用事はそれだけだったから、じゃあ、って言い合って部屋に帰る。こうやって普通に話せるのも「こいつは安全」って体が思うようになったお陰って事か。だとしたら、また恐くなる事はなさそうだ。 「あ、やっべ」  オレに分かるように噛み砕いてくれた話を思い返しながら明日の準備をしていたら、遙に貸す約束だった本を渡し忘れた事に気が付いた。一回思い出すと、放っておくのも何となく気持ち悪い。  わざわざ袋に入れるようなもんでもねぇし。と、そのまま手に取り外に出る。いつも通りに隣室の扉を開けようドアノブを捻る。ガッ、と硬い感触がした。 「あ?」  ここを開けられないのは、遙が家に居ない時だ。  前に一回、開いたのに誰も居なかった事がある。「ちょっとそこまで」って分数じゃない時間を待つ間に連絡も取れなくて、何かあったのか? って珍しくそわそわした。なのに、平然とした顔で帰って来た家主は、昴以外は開けられないから大丈夫だ、と吐かしやがった。  「オレが急に帰んなきゃいけなくなったら、どうすんだよ。鍵かけねぇまま出るとか絶対嫌だからな」  「昴が出て行けばかかるぞ?」  「気分的に無理だっつってんだよ。開いてるからって入ったのに留守なのも。一言寄越すか、意味なくても開け閉めさせろ。落ち着かねぇんだよ」  他にも二、三言、説教混じりの抗議をした結果、居ない時はちゃんと鍵をかける約束になったし「ではこれを」って合鍵も渡された。  それを取りに戻ってまで置いて来たいかって聞かれると、正直微妙。仕方なく自室に引き換えして、鞄に本を突っ込む。  にしても、こんな夜中に何しに出掛けたんだ? 後がつっかえてんなら言ってくれりゃ良かったのに。不思議に思いつつ、そんな日もあるかって一旦流した疑問は、眠る直前までぼんやりと引っかかり続けていた。

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