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一人じゃ見られない景色 5

お父さんも悠貴さんのことを気に入っているので、嫌な顔一つせず、キャンプに行くことや、薫のことを頼むとか言っている。 お父さんが現れたら、更に緊張してしまったみたいで、悠貴さんがかしこまっているのが、何だか可愛い。 そんな風に朝食を食べ終えると、まとめた荷物を抱えて、ボクと悠貴さんは家を出て、悠貴さんの車に乗り込んだ。 「行ってきま〜す!」 窓を開けて手を振ると、お父さんとお母さんが笑顔で送り出してくれた。 「気をつけるよの〜」 「お土産よろしくな〜」 暢気(のんき)な両親の声を聞きながら、車が出発してしばらく走ると、二人っきりになっていることに気がついた。 久しぶりの二人っきり。 何だか少し緊張しちゃう。 「はあ・・・緊張した・・・」 ハンドルを操作しながら、不意に悠貴さんが肩の力を抜きながら言った。 ボクは反射的に悠貴さんの横顔を見つめた。 「え?・・・そんなに?少しだけかと思ってました」 ボクがキョトンとして問いかけると、悠貴さんは眉根を寄せて、 「あのな・・・恋人のご両親と会うってのは、緊張するもんなんだよ」 「そうですよね・・・」 『ボクも悠貴さんのご両親にお会いしたら、緊張するんだろうな』 口をついて出そうになった言葉を、寸(すん)でのところで飲み下す。 危ないところだった。 事情は全然判らないけど、悠貴さんは自分の家族の話しを極端に嫌がる。 以前、何気(なにげ)なく聞いたら話したくないと、拒絶されてしまった。 少し淋しいけど、悠貴さんがまだ話したくないなら、無理に聞こうとは思わない。 いつか・・・いつか、悠貴さんがボクには話してもいいって、そう思ってくれるのを、待とうと思っている。 きっと、いつか話してくれるし、会わせてくれると思う。 信じてる。 車は市内を抜けると、首都高速道路へと侵入した。景色が高くなり、いつも見上げているビルが目線と同じ高さになる。 雲ひとつなく晴れ渡った青い空が、少し近くなったような気がした。 空を横切って飛ぶ鳥を眺めながら、ボクは話題を変えようと思い、 「お休み取るの大変でしたよね。大丈夫ですか?」 と全然違う話題を振った。 悠貴さんは、慣れた手つきでカーブを曲がると、少し安堵したように、寄せられた柳眉(りゅうび)を緩(ゆる)めて、いつもの優しい表情を浮かべる。 「なに・・・うちの科は優秀な人材が多いから、オレ一人いなくなったところで、困らないさ」 「そんなこと言って」 ボクだってわかっている。 脳神経外科を実質的に回してるのは、悠貴さんだから、ほんの二日だけでも休みを取るだけでも、スケジュール調整が大変だったことくらい、判ってる。 本当のことを言って、ボクに心配かけさせまいと、悠貴さんがつく優しい嘘。 こういうところも、すごく好き。 ボクは、窓の外を流れる、太陽の強烈な光を高層ビルの窓が反射している。キラキラ光る綺麗な東京の街を完全に無視して、悠貴さんの端正な横顔を見つめていた。

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