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夢のような日々⑤

「五十鈴〜!お前委員会入ってなかったよな?」 衣替えを明日に控えた今日、いつものように授業を終えた僕は委員会の集まりがある3人を見送っていつものように待ち時間をぼんやりと渡り廊下を眺めて過ごしていた。 今日はもう蓮先輩渡り廊下通ったりしないかなぁ?なんてぼんやり考えていたら困ったように眉をハの字にした担任のたっちゃん先生に声をかけられた。 何で?ってキョトンとしながらもコクリと頷く。 「僕ですか?入ってないですけども」 するとみるみる間にいい笑顔になったたっちゃん先生。あれ?これはなんだか嫌な予感。 「そーだよなぁ!暇だよなぁ!そんな五十鈴にお願いだ。アレ、社会科準備室まで持って行って置いといてくれ。鍵は後で職員室に返しといてくれればいいから。頼んだぞぉ〜!」 「へぁ?」 「うんうん、助かったよ〜。先生今から委員会行かないといけなくてさぁ。こないだ遅れて怒られちまったから今日は遅れる事は許されんのだ」 教卓に積んである資料達を見て僕が思わず出した変な声を肯定に取られちゃったのか元々返事を聞く気が無かったのかは定かじゃ無いけど、うんうんって満足そうに頷いたたっちゃん先生は僕の机に鍵を置いて頼んだぞぉって念押しみたいに言ってから教室を出て行ってしまった。 ・・・・・・僕暇だなんて言ってないんだけど。 いや、まぁ待ってる間は暇だけどさぁ。 仕方ないなぁ〜って1つ溜息をこぼした僕は別館にある社会科準備室に向かう為に重たい腰を上げた。 ✱✱✱ ・・・・・・1度に持つんじゃなかったかも。 大きな地図をくるくるっと巻いたやつを右脇に挟み込んで、クラス全員分のノートに多分今日授業で使った資料を両手で抱えるようにしてヨタヨタと渡り廊下を歩きながらちょっと後悔する。 でも教室から社会科準備室までって地味に距離あるから何度も往復したくないし。誰かに手伝い頼もうと思っても、もう委員会に入ってないような人は残ってなかったしなぁ。 はふぅ、とまた一つため息を溢した瞬間、渡り廊下を少し強い風が通り抜けた。 「うぁ!」 その風にノートが煽られて落ちてしまいそうになって慌ててぎゅうっとノートを抱きしめる。 渡り廊下の下は中庭だから池もあるし落ちちゃったらシャレになんない!ってそちらに意識を取られた瞬間、ボスンと前から来たらしい誰かにぶつかってしまい爽やかなシトラスの香りのするその人に抱き止められた。 「おぉっと〜!びっくり!だいじょーぶぅ?」 あれ?この声って・・・。 驚きのあまりボスンと胸元に頭を預けたような体勢のままカチンと固まっていた顔をパッと上げてシトラスの香りの人の顔を確認する。 僕を受け止めてくれたのは驚いたように目をまん丸にしているみっくん先輩だった。 やっぱり。聞き覚えのある声だと思ったんだよね。 「あれぇ?キミゆいちゃんじゃ〜ん!久しぶりぃ」 僕が顔を上げてみっくん先輩だって認識した瞬間、パッて笑顔になったみっくん先輩の顔が思ったより近くにあって驚いてしまう。 「わぁ!みっくん先輩!ごめんなさい、大丈夫ですか?」 「わぁ〜!俺の名前覚えててくれたんだねぇ。嬉しいなぁ」 慌てる僕をニコニコとしながら見つめるみっくん先輩は何故か僕を支えていた手を背中に回してぎゅっと囲い込んだまま離してくれない。 「え?はい、教えて頂きましたし・・・ちゃんと覚えてますよ?」 なんだこの状況?とかそりゃあんな濃い登場の仕方されてたら忘れないよなぁとかそんな事を思いながらキョトリとみっくん先輩を見上げていると、玩具を目の前にしたような楽しそうな笑顔を浮かべ始めたみっくん先輩にまた首を傾げる。 何か面白い事あったっけ? 「そっかぁ〜!ゆいちゃんは良い子だねぇ。それもすっごく無防備でかぁいい〜。レンが構いたがるの分かる気がするぅ〜!」 「えっと・・・?」 何言ってるんだこの人?って僕が困惑しているとニンマリと笑いを浮かべながら観察するように僕を見ていたみっくん先輩に唐突に頭をぐりぐりと撫で回された。 「みっくん先輩?どうしたんですか?」 なんで僕頭ぐりぐりされてるんだろう?謎すぎる。 僕、えぇ〜?って顔しながらみっくん先輩の事見てたんだと思う。 あははって楽しそうに笑って、なんか新鮮〜!って呟いたみっくん先輩にヒョイって僕が抱えていたノートと資料を全部取られてしまった。 「コレ、どこに持っていくのぉ?」 「へ?社会科準備室です?」 「おっけーおっけーっ!じゃ〜行こっかぁ〜!」 「えぇ?ちょ、みっくん先輩!?大丈夫です、僕1人で持っていけますよ!?」 楽しそうに笑いながらさっさと踵を返して別館へ歩いていくみっくん先輩を慌てて追いかける。 普通に歩いてる筈なのにめちゃめちゃ早いんですけども!脚が長い人ってずるい・・・! そんな風に思った瞬間ふと蓮先輩の事を思い出す。 蓮先輩もみっくん先輩と同じくらい背が高いし脚だってすっごく長い。スタイルがすっごくいいからね。 でも僕、蓮先輩と一緒に歩いていて置いて行かれた事なんて一度もないなぁって気付く。 きっと僕の歩く速さに合わせてくれてたんだって思うとじんわりと胸が温かくなった。 蓮先輩が居ない所ですら蓮先輩への好きが増えていく。 蓮先輩って、ズルい。

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