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え、嫌ですけども⑥
「ここじゃ日差しが直接当たって暑いだろ。テントに行こうな?」
僕の頭を撫でていた手をサラリと僕の腰に添わせた蓮先輩にエスコートされるみたいにテントの方へ促される。
なんだか周りから見られている気がしたけど、普段から蓮先輩の隣を歩くときはだいたい手を握られているか腰に手を添えられているかのどちらかなので、まさかその様子に驚かれているだなんて少しも思い付かなかった僕は呑気に蓮先輩はやっぱり目立つんだなぁ、格好良いもんなぁ、なんて思っていたんだ。
テントに戻ってからもそれが当然って感じで僕を自分の隣に座らせてくれた蓮先輩は、暑くないか?喉は乾いてないか?日焼け止め塗り直してやろうか?等々、色々気にかけてくれて。
やっぱりあれかな?最近ではペットは家族の一員、とか言うしね、僕のこともそんな感じで特別に大事にしてくれてるのかもしれない。
蓮先輩のお気に入りペットってやっぱりスンゴイ。
飽きられないようにペット力 を鍛えなきゃいけないかも。正直どうしたら鍛えられるのかサッパリ分かんないけど。
ちなみに元々僕が座っていた場所からは割と遠い席だったから、座る時にこっちに座るねって意味を込めて匠達に手を振ったら匠が親指を立てて良い笑顔を返してくれたから、安心して蓮先輩の隣に収まってたんだけど。
何故か僕の隣には誰も座らなかったんだよね。
なんでなんだろ?まぁ人口密度が高いと暑いし良いんだけどね。
そんな風に蓮先輩と一緒にお話ししたり応援したりしながら時間を過ごしているとあっという間にお昼の時間になって。
蓮先輩が、今日も俺と一緒に食べてくれる?って。
僕、いつものように蓮先輩の分のお弁当も作ってきてたからさ、ちょっと慌てちゃった。
「僕、いつもみたいに一緒に食べてもらえるって思って蓮先輩のお弁当も持ってきちゃいました。もしかしてお弁当用意してましたか?」
「いや、結翔の弁当が食べたい。用意してくれてマジで嬉しい」
眉をへちゃりと下げてしまった僕の頭を撫でてくれた蓮先輩は、嬉しそうに笑ってくれて。
それに嬉しくなっちゃって、僕までにっこにこになっちゃった。
そんな話をしていたら匠が1人で僕たちの所に駆け寄ってきて。
「ゆい、田原先輩とお昼食べるでしょ?僕達教室に戻って食べるからさ、戻る時教えて?二人三脚の前にもうちょっとだけ練習やっておかない?」
「ん、そだね、わかった!最終確認大事だもんね・・・!声掛けてくれてありがとう。じゃあさ、一応お昼の部が始まる15分前とかに集合予定にする?目安が無いと気付いたら時間過ぎちゃってそうだし」
「そだね!そぉしよっ!本番前にあんまりガッツリやっても疲れちゃうし、それくらいが丁度良いよねぇ!じゃあ15分前目安で決まりっ!」
なんて2人で約束したんだけど。
話がひと段落したあたりで匠がふと蓮先輩に視線を向けて。
「田原先輩、ちょっとお耳に入れておきたい事がありまして」
「・・・ん、何?さっきメッセージでもらった蜜樹の事なら後でゲンコツ落としとく予定だけど」
「いやいや〜、多分田原先輩が喜ぶやつです」
俺が喜ぶやつ?ってキョトンとする蓮先輩に、ニンマリと笑う匠。
僕も何なんだろ?ってキョトンとしていたんだけど、ニンマリと笑う匠は蓮先輩にだけコッソリと何かを伝えてて。
「・・・先程ゆいが狼の真似をしてがおーってポーズをしてたんですけどね、それがめちゃくちゃ可愛くて。本人は可愛い事した自覚が無いみたいだし、田原先輩にもしてあげたらいいって言ったんですけど見る限り忘れてるっぽいんで。狼の真似してって話振ったら可愛いゆいが見れますよ!」
よくやった、って感じで頷いた蓮先輩と未だニンマリしている匠。
僕も気になるのに結局匠は、「後で田原先輩が教えてくれると思うよぉ!」って言って手を振って去っていってしまった。
そんな事言われても気になるよぉ・・・!って思わずぷっくり頬っぺたを膨らませてしまった僕だけど、蓮先輩に頬っぺたをつつかれて。
「また可愛い顔してんなぁ。ちゃんと後で何の話だったか俺が教えてやるからさ、飯食べに行こう?俺、早く結翔の美味い飯が食いたいなぁ」
なんて言われちゃって。
蓮先輩が僕のご飯食べたいって言ってくれたっ!嬉しいっ!早くしないと食べる時間少なくなっちゃうんじゃ!?って僕はアッサリ思考がズレちゃった。
なんだか楽しそうに笑っている蓮先輩に連れられて、お昼の時間だけ解放される校舎に戻って。
屋上のいつもの場所に行くのかと思ったら、今日は別の場所で食べようかって言われて、蓮先輩に促されるまま渡り廊下を通って別館の空き教室でお弁当を食べる事になったんだ。
───今日は蜜樹に邪魔されたくねぇし・・・。それにやっぱり可愛い結翔は誰にも見せたくねぇしなぁ。
そんな蓮先輩の小さな呟きに全く気付かなかった僕は、初めて入る場所に思わずキョロキョロと辺りを見回すのに夢中で。
そんな僕を微笑ましそうに見ている蓮先輩は僕が気付かぬ間に扉を閉めて後手でカチャリと鍵を閉めていた。
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