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第11話 とろける想い
夕食の野菜スープを食べ終えると、エミリオは身を清めてベッドに潜り込んだ。ベッドサイドのランプに明かりを灯し、読みかけていた小説を開く。
いつもならすぐに集中して物語に没頭できるのに、今日はいろんな思いが頭の中をぐるぐると巡ってなかなか文字が入ってこない。
「……ふぅ」
ジェスに触れられた頭に自ら触れ、その感触を思い出そうとする。
大きな手で撫でられたところから熱がじわりと溢れてきた。
――嬉しかった。すごく、ドキドキした。
ジェスのことを思うと切なくなり、たまらなくなる。こんなこといけないと思いながらも、身体はじわりと熱を持ち始めて自分で制御することができなくなった。
「…………ん」
集中できない小説はベッドサイドに置いて、紺色の寝巻きの胸元をきゅっと握る。
そのまま目を閉じ、浅くなっていく呼吸を感じながら熱の中心に手を伸ばした。
エミリオの中心は下着を押し上げて主張していた。それを指先に感じ、理由のわからない涙が滲んできた。
こうして自身を慰めることしかできないことが辛くて、それでもジェスへの思いを跳ねのけるほどの強さは持っていなくて、自分の弱さに嫌気がさす。
「ん……は」
右手で肉茎に絡ませてゆるゆると上下に擦る。ジェスのことを思いながら行う自慰行為は何度繰り返しているかわからない。行為を終えた後の虚しさにいつも苦しんでしまうけれど、熱を帯びる身体は放っておくことはできなかった。
くちゅ、と濡れた音がする。エミリオは我慢できずに溢れた蜜を使って、ぬるぬると刺激を与えるのが好きだ。
「あっ……ん……」
高い声が漏れてしまって、恥ずかしさと罪悪感が胸に渦巻いている。本当はジェスに触れてほしい。あの大きな手で愛撫されたらどうなってしまうだろう――考えて、辛くなって、涙が頬を伝っていく。
想像の中のジェスはとても優しくエミリオに触れてくれた。
ただの想像でしかないけれど、嬉しくて肉茎の硬さがどんどん増す。
こんなにいやらしい自分を許してほしい。ジェスのことをこんなふうに想像で汚す自分を許してほしい。
それ以上のものを手に入れることはできないから。だから、神様。
(醜い僕を、許してください……)
くちゅくちゅと濡れた音を少しずつ激しくさせながら、エミリオは自分を慰め続けた。
「あっ……あ、ジェス、さん」
名前を呼ぶと、想像の中のジェスが微笑む。優しい笑みを浮かべた顔がそっと近づいてきて、そのまま唇が重なる。
これが現実になったらどれだけ幸せなことだろう。
頭の中がとろけてしまう。……好きだ。ジェスのことが大好きだ。
きっかけはとても些細なことだったけれど、あの時のことはずっと忘れられない。熱に浮かされたような頭でジェスを意識した時のことを思い出す。
『――あんたの髪、太陽浴びたらキラキラすんだな。すげえ綺麗だ』
そんなこと、今まで生きてきて一度も言われたことがなかった。指先で蜂蜜色の巻き毛を遊ばれて、どきどきが止まらなくなった。
ジェスは自分とはまったく違うタイプの男性だ。少し強面な見た目をしているけれど、中身はすごく優しくて、包み込むような笑顔を見せる、あたたかい人。
ジェスのことが好きだ。彼のことを想うと苦しくなるけれど、同時に胸が幸せでいっぱいになる。
エミリオがこんなことを思っているなんて、ジェスは知らない。
でも、そのままでいい。同じ町に暮らして、時折会話を交わす。それだけで十分幸せだ。
「ジェスさんっ……ジェス、さん……!」
身体は熱く昂り、何度も名前を呼んでついに極まってしまう。
ぴんと伸ばしたつま先がびくびくと震え、手を汚す。
その瞬間、一気に身体から力が抜けて、エミリオは天井を仰いだ。
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