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第23話 誓い
「お前なぁ……それ反則だろ……」
ジェスが背中にぴったりとくっついたエミリオに向けて言葉を漏らす。
ため息と共に吐き出された言葉は熱くて、気を抜くととろけてしまいそうなくらい男らしかった。
「二階に行ったら俺の部屋があるんだぞ」
「え……っ?」
「そこにはベッドがある。俺たちはふたりきり。……意味わかるか?」
振り向いたジェスの目はギラギラしていて一瞬怯んだが、言葉の意味を理解したエミリオは慌てて手を離し、首を横に振った。
「そんな、つもりじゃっ……!」
「悪い悪い。怖がらせるつもりじゃなかったんだ。まぁ……さっきの言葉が本当なら、いつか、な?」
「――っ!!」
ジェスは向き直ってエミリオの両手を掴むと、華奢な指先にキスをした。
唇が指先に触れるとぞくぞくしてしまう。心のどこかではもっと触れてもらいたいと思ってしまっている。それがエミリオの本音だった。
「ジェスさん……」
「なあ、もう一回言ってくれねえか、さっきの可愛いの」
「さっきの……? ええと、だ、大好き……です?」
「それ、本当だよな? 俺のことをずっと好きだったって言ったの、本当に本当なんだな?」
「本当ですっ! 嘘をついたりなんかしません!」
思わず大きな声が出てしまった。嘘だなんて思われたくなくて、信じて欲しくて、ジェスに握られていた手をぎゅっと握り返す。不安な気持ちで反応を待っていると、急に身体が引き寄せられてジェスの腕の中に収まってしまった。
「……っ!」
「後悔すんなよ? 俺は本気だからな」
涙を指先で拭われ、頬を撫でられる。それだけでどうにかなってしまいそうなほど嬉しかった。大好きなジェスに包まれて、触れられている。
あれだけ想いを打ち明けるのが怖かったのに、こうして抱かれているだけで今は幸せで満たされている。
こんな幸せがずっとずっと続けばいいと、エミリオは心から願った。
「ああくっそ、やべえ、顔が勝手ににやけちまう」
エミリオを抱いたまま、ジェスは首筋に顔を埋めてきた。伸びた黒髪が首元に触れてくすぐったい。
「こんな気持ちになることなんてもう二度とないって思ってたんだよ、くそっ!」
「ジェスさん、怒ってるのか喜んでるのかよくわかんないです」
ぎゅう、と抱きしめられながら、エミリオはやっと笑顔を取り戻した。「あーもう、好きだぁ!」と言われ、ドキドキはおさまらない。それに、想いを伝えて互いに好き合っているということがわかった今、ジェスのように口元がほころんでしまうのはエミリオも同じだ。
「やっと笑ったな」
「ジェスさんが面白いからですよ」
「何でもいいさ。エミリオには笑っててもらいたい」
胸がときめく言葉をたくさんくれるジェスが愛おしい。
見つめ合って、それからまたキスをする。何度繰り返しても足りないから、ジェスとエミリオはいつまでもお互いを求めあった。
二階にベッドがある――それを意識するとぞわぞわと緊張が襲ってきたが、ジェスはキス以上のことを求めてはこなかった。
(そうだよね、まだ気持ちを確認したばっかりだし……)
これからの日々がどんなふうに変わるのか。それはまだ未知数だったが、通じ合った想いを大切にしていこうとエミリオは神に誓った。
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