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第24話 甘い時間と来訪者
抱きしめ合い、キスを交わし、想いを確かめ合っていると、不意にジェスはゆっくりその身をエミリオから離した。
「あー……悪い、これ以上は駄目だ」
「っ……ご、ごめんなさい! 僕、夢中になっちゃって……すみません」
「いや、そうじゃなくってな。これ以上キスしてると本当に……二階に連れ込んじまいそうだから」
ジェスは咳払いをして、ぽんぽんとエミリオの頭を撫でる。その意味をはっきりと理解して、エミリオは恥ずかしくて俯いた。
恥ずかしいけれど、そういう気持ちになってくれていることが、すごく嬉しい。大好きなジェスと身も心も繋がる時がいつかくる。それだけで胸がじんじんと熱くなった。
「あっ……! そうだ、お肉、食べかけだった……」
「あたためなおすか? あ、腹一杯なら無理して食うなよ」
テーブルの上の食べかけの皿を見てジェスが言う。
お腹はもう十分満たされているけど、残すのは何だか申し訳なくて言い出せない。そんな時、ジェスは思いついたように切り出した。
「そういや俺、作るのに集中し過ぎて昼飯食ってねえんだ。もらっていいか?」
「えっ、えっ……!」
「食わせてくれると嬉しいんだけどなー」
わざとらしく言いながら、ジェスは椅子に腰掛けてエミリオの反応を伺った。これは恋人同士なら普通にすることなのだろうか。恋愛経験が皆無なエミリオにはよくわからなかった。
けれど、ジェスがそう言ってくるなら、答えなければならない。
ぱたぱたと慌てて椅子に座り、皿の上の鶏肉のソテーをナイフで少し小さく切って、ジェスの方に向き直る。
「え、ええと……おくち、あーんしてくださいね……?」
「ッ……!! やべえ、めっちゃくちゃイイ!!」
教会にいた頃、小さい子に物を食べさせる時はこんな感じで声をかけていたが、これで正解だっただろうか。よくわからないけれど、ジェスが嬉しそうににこにこしていたので安堵した。
「もうひと口!」
甘えてくるジェスが可愛くて思わず笑顔になる。これが恋人同士というものなのかと思うと嬉しくて、もっともっとジェスに尽くしたくなった。
「はい、あーん……」
皿の上の最後の一切れをジェスの口元に運んだ時、突然のノックと同時に店のドアが開いた。甘い空気は一瞬で凍りつき、入ってきた人物もジェスとエミリオの様子を目の当たりにして固まっていた。
「ウィ、ズリー……? なんで、お前が」
ジェスに寄り添うようにフォークを差し出していたエミリオが、慌てて何事もなかったように手を下ろした。だが、現れたウィズリーの表情を見ればはっきりとわかる。
(み……見られた……!!)
それまでふたりきりのとろけるような時間を過ごしていたはずが、ウィズリーがやってきたことによって時が凍りつく。何を言えばいいのか、どう取り繕うべきなのか、エミリオにはわからなかった。
「……随分と、仲良くなったものだな。いいことじゃないか」
「は、はは……そうだろ?」
「エミリオを店に誘って、その後どうなったか興味があったんだが、まさかまだ一緒にいるとは思わなかった。……邪魔をしたようだな、すまない」
ジェスは店を出て行こうとするウィズリーに駆け寄って、「行くな行くな!! 事情を説明するから……!!」と悲鳴のような声を上げた。
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