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第25話 ジェスとウィズリー
ジェスの叫びにウィズリーは立ち止まった。
「説明? ……ふむ。じゃあ聞かせてもらおうか、その説明とやらを」
硬直しているエミリオは、振り向くウィズリーの目の奥がぎらりと光るのを見た。彼のことをこんなふうに『怖い』と感じたのは初めてだ。
「よし、とりあえず入ってこい!」
「エミリオは嫌そうに見えるが、本当に俺に話してもいいことなのか?」
「いい。お前になら話しても大丈夫だ。つうか、お前には話そうと思ってた」
「なるほど。あんまり退屈させるなよ? まあ……さっきの様子を見る限り、面白いことになっていそうだったけどな」
ドアを閉め、こちらに向かって歩いてくるウィズリーはにやりと笑みを浮かべた。
(ウィズリーさんってこんな顔するんだ……知らなかった)
ジェスと親しげに話しているところを見ると、酒場の常連なのかもしれない。そうだとしても話してしまって大丈夫なのだろうか。そういう関係になったのだとウィズリーに話して、もし町で噂になったりしたら――。
ウィズリーの性格からして言いふらすようなことはしないと思うけれど、悪戯っぽい笑みを浮かべる彼を見ると少し心配になってしまう。
「ジェスさん……」
「そんな顔すんな。ウィズリーは口が堅ぇ」
ウィズリーはふたりがくっついて座っている向かいの席に腰掛けて、話が始まるのを待っている。すべてを見透かしたような余裕の表情で腕を組んで話を促した。
「えーと……まずどこから話せばいいか……」
「さっきはベタベタとくっついて随分楽しそうだったな? そうなった経緯を聞こうか。なるべく詳しく」
「……っ!」
ウィズリーの視線がちらりとエミリオの方に向いた。刺されるような感覚に襲われて、膝の上で手を握り締める。誠実で凛々しいと感じていたウィズリーはどこへ行ってしまったのだろう。
「詳しくっつってもな……あー、俺たち、お付き合いすることになりました!!」
詳しくと言われているのに、だいぶ端折って結論をぶつけたジェスに驚かされた。
ウィズリーがそんなことで納得するはずがない。エミリオはおどおどしながら彼を見ると、ジェスの言葉を聞いて何事かを考えているようだった。
「お付き合いねえ……いずれはそうなると思っていたんだが、まさかこんなにすんなり行くとはな」
「あ?」
「お前たちふたりとも、恐ろしいくらいわかりやすいんだよ」
「は!? んなことねえよ……多分!!」
「こういう馬鹿正直なところに惚れたのか? エミリオ」
突然話を振られて、慌てて首を横に振った。ジェスが馬鹿正直だなんて思ったことがない。惚れてはいるが、それは別の理由でだ。
「そんな……ことは……」
「顔真っ赤にして本当に可愛いな。ジェスが惚れるのもわかる気がする」
「おい! お前何言い出すんだよ!」
俯くエミリオの肩を抱いて、ジェスが怒りを露わにする。
噛みつきそうな勢いのジェスを止めなければと思ったが、エミリオが動くより先にウィズリーが口を開いた。
「詳しく話が聞きたいと思ったんだが、聞くまでもないな。何があったのか、だいたい予想がつく」
「どういうことだよ」
「お前が我慢できなくなって暴走したんだろ」
「……ウィズリー……てめえ怖えな!!」
自分と話す時とは全然違うジェスの口調に驚いたが、エミリオは自然体のジェスを見ることができて嬉しくなった。きっと、酒場の客たちとはこんなふうに話をしているのだろう。
今まで穏やかな口調で話しかけてくれていたのは、きっと臆病な自分のためだったのだ。
(……ジェスさんに、こんなに想われていたなんて)
幸せで胸がいっぱいになる。わいわいと言い合っているジェスとウィズリーを眺め、エミリオは小さく笑ってしまった。
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