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第40話 欲しい

「お、いっ……!!」  エミリオの行動に驚いたのか、ジェスは手を引いてしまった。その反応にエミリオも同じく驚いて、目を丸くしてジェスを見る。 「あ……ごめんなさい」 「いや、ちが……悪い、違うんだ」  手を振って否定するジェスの顔が赤くなっている。動揺しているのが伝わってきて、エミリオは自分がした行動が想像以上に大胆なことだったと気づかされた。 「なんつうか、すごく嬉しくて……こんな話してる時なのに、少し舞い上がった。すまん……」  耳まで真っ赤にして俯くエミリオに、戸惑ったジェスの声が届いてさらに恥ずかしくなってしまう。はしたないことをしてしまったと思い込み、膝の上で両手をぎゅっと握り締めた。 「ごめ……なさい……」  細身の身体をさらに縮こめるエミリオを見て、ジェスは目を逸らす。彼の落ち着かない姿をエミリオは不思議に思ったが、それよりも自分がやってしまった手にキスをするという大胆な行動に今更後悔していた。 「変なことして、すみません……」 「いやいやいや! 変じゃない! 確かに驚きはしたけど、絶対に変なことじゃない! エミリオの気持ち、ちゃんと伝わってきた」  顔を上げるとふたりの視線がぶつかった。どうしてもジェスの顔を見ることができなくて、エミリオはすぐ視線を外す。そんな様子に、ジェスは立ち上がって、エミリオの腕を引いて自分の胸に抱き寄せた。 「待っ……待って、ジェスさんっ……」 「お前が可愛すぎるのが悪い」 「ちょっ……! やだ、そんなふうに触っちゃだめです……!!」  いつの間にか腰に回されていた手が降りてきて、エミリオの尻に触れていた。急なことに頭が追いつかず、エミリオはジェスの胸を叩いて必死に抵抗した。 「ジェスさん、急にどうしたんですか……?」  さっきまで悲しい気持ちや苦しい気持ちでぐちゃぐちゃになっていたのに、今度はいきなり抱きしめられて混乱する。嬉しくないわけではないけれど、唐突に身体に触れられて慌ててしまった。 「……嫌か?」  目眩がしそうな声音で囁きかけられて、腰が砕けてしまいそうになる。  このままでは流されてしまう。こんなに密着して尻を揉まれたら、おかしな気分になってくる。エミリオは必死に頭を横に振って、声を振り絞った。 「だ……め、です」 「ジェス。本当に、確かめなくていいのか?」 「確かめる?」  ジェスの言葉がよくわからなくて聞き返すと、手を掴まれて指先にキスをされた。それだけで身体が震えて、少しずつ熱くなってくる。 「俺が本当にお前を愛してるってことを、だ」 「ひゃ……!」  耳元で囁かれて悲鳴を上げてしまった。  我慢できなくなる。このままでは、はしたなくジェスのことを求めてしまう。  陥落させるようなジェスの声に、エミリオは抗おうと必死だった。 「だめ……」 「じゃあ、さっき手にキスしてくれた意味が知りたい。俺のことを拒むなら、あんなことしないはずだろ?」  顎をとられ、唇が重なる。それを拒むことはできなかった。  本当は欲しい――ジェスのことが欲しくてたまらない。けれど素直になることができなくて泣きそうになってしまった。 「ジェス、さんっ……」 「本当に嫌ならやめる。お前を無理矢理どうこうしようってつもりはない……が、俺は抱きたいと思ってる。これだけは伝えとくな」  はっきりとした言葉で求められ、熱い吐息がこぼれる。ジェスがこんなにも自分を求めてくれている。それが嬉しかった。その言葉だけで、拒もうと必死だった心が絆されていった。

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