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第42話 熱
「待って……っ、ジェスさん、怖い」
自分の身体が自分のものではなくなった感じがする。勝手に身体が跳ねて、恥ずかしいのにもっともっとと求めてしまう。
それが怖くて、エミリオはジェスの顔を押し返そうとした。
このまま放っておくと、胸をずっとちゅくちゅくと吸ったり舐めたりしてくるジェスに全身を食べられてしまいそうだ。
「怖い?」
「だって、こんなの初めてだから……」
「……煽ってくるのはお前なんだけどな」
胸に悪戯をしていた唇が、今度は首筋に落ちてくる。その流れに沿って鎖骨までいくつもキスを落としながら、「怖いことなんかない。痛くもしないし、エミリオを虐めたいわけじゃない」と言ってたっぷり優しくするので、気が気じゃない。少しゴツゴツした男らしい手に身体中を愛撫されて、呼吸が苦しくなるばかりだ。
「身体、すげえ熱くなってんな……やらしい気分になってきたか?」
「言わないで……っ」
声も本当に自分が出しているのかと疑いたくなるくらい甘ったるくなっていて、耳を塞ぎたくなってしまう。愛撫から逃れようと身を捩れば、ジェスがそうはさせまいと身体を無理矢理仰向けにさせてくる。
このままでは恥ずかしい姿をジェスに見せることになる。それは嫌だと思っているのに、身体は愛撫に反応してとろけていく。
「だめぇ……」
「そんな可愛い声出されたら止められないな……本当に嫌がってるようには見えないぞ」
ジェスの手が中心に伸びてくる。布ごしにそこへ触れられて、エミリオは下肢をびくんと震わせた。そして思いついたように腰を押し付けてきて、ジェスの昂ったものの大きさを知覚させられる。
「ひゃ、う」
驚いた声をあげてジェスの顔に視線をやると、獣のような目が食らいつくようにこちらを見つめていた。
自分は一体どうなってしまうのだろう。このままでは、ギラギラした目つきのジェスに食べられてしまう。頭のてっぺんから爪先まで、余すところなくすべてジェスのものになる――そう考えると急に下腹部が疼き、じんわりとした甘い痺れが全身を駆け巡った。
「エミリオ――エミリオ、わかるか? 俺がどれだけお前のことを愛してるか、ちゃんとわかってくれたか?」
「ん……」
熱いジェスの欲望が擦り付けられて、いやでもジェスの興奮が伝わってくる。しかし、こんなに大きいなんて思ってもみなかった。こんなもので愛されたら、本当にどうにかなってしまうのではないだろうか。不安が芽生えたが、それよりも脈動するそれが押し付けられることでエミリオは絶頂してしまいそうなほど感じ入っていた。
「エミリオと、愛し合いたい」
率直な言葉に応えようとしても、羞恥を感じてしまって口ごもる。エミリオだって、ジェスとこうしてベッドの上で愛し合いたいと思っている。素直にそう答えてもいいものか、エミリオは少し困惑した。
「……まだだめか?」
悲しげなジェスに惑わされそうになった。そんな顔をされたら、なんでも許してしまいそうになる。自分はこんなにも言葉にするのが下手くそだったのか、とエミリオはきゅっと歯を食いしばった。
ジェスの気持ちにちゃんと応えないと。素直にならないと、この先には進めない。
エミリオは勇気を振り絞って口を開いた。
「――や、やさしく、して……ください」
消えいるようなか細い声だが、エミリオは胸の内に溢れていた思いをようやく口にすることができた。その言葉を聞いたジェスはふわりと微笑み、短く「ああ」とだけ答える。その瞬間信じられないくらい身体中が熱くなり、燃えているような錯覚に陥った。
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