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第46話 また今度
「どうしたんだよ、ちゃんと起きないと仕事に遅れるぞ?」
「……いまなんじですか……」
遅刻は困る――そう思い、エミリオは震える声で時間を尋ねた。
毛布の中で丸まった身体が妙にさっぱりしていることに気づいて、さらに羞恥を煽る。あの行為の間にかいた汗も散らした白濁の汚れも、全部きれいに拭ってくれたようだ。
(全身触られた……恥ずかしいところも、全部……)
その事実がぐるぐると頭の中を巡り、吐息が震える。嫌だったのかと言われればそうではないけれど、初めてのことにエミリオは混乱してしまった。
「7時10分だよ。目覚まし時計が7時に合わせてあるからその通りに起こしたんだが、よかったか?」
「…………はい」
もぞもぞと毛布から顔を出すと、ジェスが優しい笑みを浮かべてこちらを見つめていた。
「ほら、可愛いことしてないで出てこい」
ジェスの言葉に従って渋々起き上がると、急に腕を引かれて抱き締められてしまった。力強く抱かれて、バランスが取れないままジェスの胸に顔を寄せる形になる。
(そういえば……ジェスさんはあの後、どうしたんだろう……?)
昂った身体をどう処理したのか、不意に気になってしまった。
自分ばかりが気持ち良くなって、ジェスのことまで考える余裕がなくなっていたことに罪悪感が生まれてしまう。ジェスはあんなにもエミリオのことを考えてくれていたのに、自分は愛されることにいっぱいいっぱいだった。
だが、ジェスはそんなこと微塵も気にしていない様子だ。
エミリオの蜂蜜色の髪を撫で、飽きもせずいろんなところへキスを落とす。それがとても嬉しくて、ずっとこうしていたいと思ってしまった。
「……ジェスさん」
言葉にするのはとても難しくて、エミリオは自分からも抱き締め返すことしかできなかった。こんなことしかできないけれど、何か少しでも伝わってくれたらいい。
ベッドの上で甘いひとときを過ごしていると、普段の生活へ戻るのが億劫になってしまう。このままずっと一緒にいたい。ずっとジェスの温もりを感じていたい。そんなわがままな思いが芽生えてしまい、エミリオはこれではいけないと感じてそっとジェスの胸を押し返した。
「そろそろ支度しないと……」
「そう、だな。悪い、昨日の余韻がまだ残ってて……離したくなくなった」
耳まで真っ赤になって、恥ずかしさでいっぱいだったが、ジェスの中に自分という存在が刻み込まれていることを実感して嬉しくなる。
エミリオはまだジェスのそばにいたかったが、時間がそれを許してはくれなかった。
「あの、ジェスさん……」
「んー?」
「今度は、僕だけじゃなくて……ジェスさんも気持ち良くなってほしい、です……」
エミリオはそれだけ言うと、慌ててベッドから降りて洗面台まで一直線に向かった。ひとりベッドに残されたジェスは、エミリオの爆弾発言に驚きながら、手で顔を押さえて俯く。
「なんつー誘い文句を……」
エミリオは自然に“今度”という言葉を使っていた。無意識すぎて気づかないほど、次があることを当たり前に思っている。
それを知り、ジェスはひっそりと舞い上がっていた。
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