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第47話 図書館への道のり
ジェスから見えないように洗面所のカーテンを閉めて着替えをしながら、エミリオの頭の中はジェスのことでいっぱいだった。
今更裸を見られることを恥ずかしがるなんておかしいかもしれない。しかし身体の隅々まで愛され、汚れた身体を清めてくれたといっても、肌を晒すのはどうにも落ち着かなかった。
「朝飯は?」
「えっと、パンがあるけど僕は大丈夫なんで……お腹空いてたら、食べちゃっていいですよ」
「朝飯抜かすのはよくないぞ」
カーテン越しに話をしていると、同棲でもしているような感覚になる。何気なく交わす他愛無い話がこんなに心地よいなんて思いもよらなかった。もし、一緒に暮らせたら――そんな想像をして、エミリオはドキドキしている胸元で小さく手を握り締めた。
この感覚をずっと味わっていたくなるが、時間が時間だ。急がなければ。
「いつもはちゃんと食べてますよ。今日は……少しのんびりしちゃったから……」
「あー、毛布かぶってしばらくぷるぷるしてたからな。可愛かったけど」
反論のしようがない。ジェスの言う通りだ。毛布にくるまっている時間があったらさっさと起きていればよかった。エミリオは黙って新しいシャツに腕を通した。
着替えをすませて洗面所から出ると、ジェスも乱れていた着衣を整えていた。背筋を伸ばして真っ直ぐ立つジェスはやっぱりかっこいい。彼の男らしい腕に抱かれていたのだと思うと、また身体が熱くなってしまった。
「っ……」
「どうした?」
「なんでもないです……!」
仕事に持って行くカバンを肩にかけて、最後にもう一度鏡を見て前髪をいじる。もう出るのか、とジェスが壁にかけてある時計を見た。
「もうちょっと余韻を楽しんでいたかったが、仕方ないか」
「あ……慌ただしくなっちゃってごめんなさい……」
「いいよ、仕事だもんな」
自然な流れで抱き寄せられて、額にキスをされた。唇が触れて、すぐに離れてしまって切なくなる。
もっと、とねだってしまいそうになるのを我慢して、ふたりは家を出た。
図書館までの道を一緒に歩く。朝早くにジェスの姿を見た町の人たちからは「早起きとは珍しいな、ジェス」と笑われたりしていた。
「……普段、この時間は家で爆睡してるからなぁ」
「お店は遅くまでやってますもんね。仕方ないですよ」
「お前はいつも早起きで偉いな」
何気ない会話をしている間に、何度視線が交わって目を逸らしただろう。
この人と関係を持ったのだと自覚すると、やっぱり落ち着かない気持ちになってしまう。
その上二人で並んで歩いていると、その関係に気づかれてしまうのではと、すれ違う人々の視線が気になって仕方なかった。
「――大丈夫だよ、誰も俺たちのことなんか気にしちゃいねえ」
急に黙り込んだせいか、ジェスに不安な気持ちがバレてしまったようだ。耳元にこっそり囁きかけられて、心臓がはねる。
「…………はい」
赤いレンガの建物が見えてくる。
図書館にたどり着くまであともう少し。その短い時間さえ、愛おしくてたまらなかった。
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