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第50話 ウィズリーの来訪

 エミリオはジェスの想いを受け入れてくれた。  なんの勝算もなくキスを迫ったわけではなかったが、拒まれる可能性がゼロだとも思っていなかった。  一歩間違えればこれまで築いてきた関係を壊してしまうかもしれない。  けれど、もうこれ以上我慢できなかった。触れたくて、エミリオを自分のものにしたくて、たまらなかった。 「……自分のものって、なんてこと考えてたんだ、俺」  物思いに耽っていると、エミリオを自分の所有物にしたいという醜い欲求があることに気がついて、ジェスは天を仰いだ。  エミリオのことを考えると、いつもの自分じゃなくなってしまう。リリスの時もそうだった――彼女のことを想うといつだって胸が締め付けられて、冷静さを失ってしまう。  昔も、今も。それは変わらない。  エミリオを愛している今も、彼女のことを思い出すたびに幸せだった日々が蘇って苦しくなる。  言い訳のようになってしまうが、理屈ではないのだ。リリスを愛していた。そして今は、エミリオを愛している。過去を忘れることなんてできない。それがエミリオを苦しめることになるとわかっているが、どうしても、彼女のことを忘れるなんてできなかった。 「俺が愛した人ごと、俺を愛したい、か……」  エミリオが昨晩言った言葉を思い出し、噛み締める。  嬉しかった。ジェスの過去を否定することは一切せず、それでも愛してくれると言ったエミリオが本当に愛おしかった。  こんなにも自分のことを愛してくれる人物が、これから先現れることがあるだろうか。  これを、最後の恋にしたい。ずっとずっと愛し続けたい。  ジェスは引き出しの中から古い手帳を取り出して、そこに挟んである写真を手に取った。そこには、白いワンピースを着たリリスの姿が写っていた。 「なあリリス。俺は幸せになってもいいと思うか? 君がいないこの世界で、君ではない誰かを愛しても――許してくれるか?」  当然のことだが、写真の中で微笑むリリスは何も答えてはくれない。ジェスは小さく笑い、そっと目を閉じた。 *** 「あっ、ウィズリーさん。こんにちは」  図書館にあまり現れることのない姿を見つけ、エミリオは声をかけた。 「やあ。調子はどうだい、エミリオ」  自警団のウィズリーが優しく微笑む。ジェスとの関係を知る唯一の人物。そんな彼が珍しく図書館に現れて、何か探し物でもあるのだろうかとカウンターの椅子から立ち上がった。 「座っていてくれ。少し君の様子を見にきただけだから」 「僕の?」 「ジェスが早くに店を切り上げた後、君の家の方へ向かっているのを見たもんでな。ちょっと気になって」  アイリーンといい、ウィズリーといい、何かと気にかけてくれるのは嬉しいが、詳しい話は出来そうにない。家にきたジェスと何をしていたかなんて話せるわけがなかった。 「ジェスから何か話があったか?」 「あ、はい……」 「そうか。それならよかった。あいつ、きちんと話せたんだな」 「え?」 「大切な話、聞いたんだろう?」  ウィズリーがなぜそんなことを聞くのかわからなかった。それに、“大切な話”だったことをどうして知っているのだろう。もしかして、ウィズリーはジェスの過去のことを知っているのだろうか。 「えっと……」 「隠さなくていい。ジェスがなんの話をしに行ったのか、わかっている」  すべてを見透かしたような目で見られ、エミリオは思わず視線を逸らした。

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