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第51話 意地悪

 ジェスが何を話したのかわかっている、とウィズリーは言った。  ウィズリーは王都からオルデルへやってきた者だ。そのためかジェスと仲も良いようだし、友人としてジェスの昔の話を聞かされていたのかもしれない。  エミリオは戸惑いながらウィズリーを上目遣いでちらりと見た。 「そんな顔しないでくれ。あいつなりに君を傷つけまいとして昔の話をしなかっただけなんだ。まあ、そのせいでかえって君を不安にさせてしまったみたいだがな」 「僕を傷つけないために……」 「賢い君ならわかるだろう?」  わからないはずがなかった。ジェスは優しいから、エミリオを傷つけるようなことを言わずにいようとしていたのだ。そして、言わないことでエミリオを傷つけたことにジェスは気づき、話をしてくれた。  それを再確認させられて、じんわりと胸の辺りが熱くなってくる。嬉しいけれど、ジェスを思い悩ませてしまったことが申し訳なく感じてしまう。  複雑な胸中を察したのか、ウィズリーは柔らかな笑みを口元にたたえた。 「君が思っている以上に、君は愛されているよ」  耳元で小さく囁かれて、エミリオは頬を赤く染めた。頭ひとつ分くらい背の高いウィズリーを見上げると、ふわりと頭を撫でられた。優しい微笑みに思わずドキドキしてしまう。  こんな目をする人だっただろうか。どこか艶っぽいというか、まるでジェスが自分を見つめてくる時のような熱を帯びた眼差しだ。 (どうしたんだろう、ウィズリーさん……)  こんな気持ちになってはいけないと思いつつも、エミリオはドキドキしてしまって胸を押さえた。 「――やはり君は可愛らしいな」 「えっ?」 「こんなことを言ってはいけないかもしれないが、とても守りたくなる」 「えっ、えっ……?」  困惑するエミリオを見たウィズリーは苦笑し、頭を撫でていた手を頬に滑らせた。 「っ……!」  突然肌に触れられたことに驚いて後ずさる。下がった瞬間、本棚に軽く背中が当たってそこで足を止めた。 「危ないぞ」 「す、みません……」 「からかってすまない。そんなにびっくりされるとは思ってなくて」  冗談だったのか、とエミリオは緊張していた身体から力を抜いた。  考えてみれば当然だ。ウィズリーは友人の恋人に手を出すような人物には見えない。 「あは……は」 「ドキドキしたか?」 「ええと……」  答えられなかった。ジェスの恋人でありながら、ウィズリーの笑顔に緊張し、意識してしまったなんてとても言えない。  口籠もっていると笑いを噛み殺すような声が聞こえてきた。 「ジェスの気持ちがよくわかったよ。さっきのは冗談のつもりだったんだが、君を見ていると本当に守りたくなってしまう」 「ウィズリーさんっ……もう、からかうのはやめてください!」  いじわるなウィズリーから逃げ出したいけれど本棚のせいでこれ以上逃げられない。エミリオはせめてもの抵抗として華奢な肩をいからせた。しかしそれさえも小動物の威嚇のように見えたのだろう。ウィズリーはまたも笑いを噛み殺した。 「すまない、本当に可愛らしくてつい」 「っ……!」 「はは、これ以上はいけないな。泣かせてしまいそうだ」  自分は一体どんな顔をしていたのだろう。エミリオは急に恥ずかしくなって手で顔を覆った。 「し、仕事に戻ります……!」 「ああ、悪かったな。邪魔をした」  ウィズリーから小走りで逃げ出して、エミリオはカウンターに戻った。  まだ顔が熱い。あんないじわるをしてくるウィズリーは初めてだ。ジェス以外の人にドキドキさせられてしまって、なんだか罪悪感が生まれてしまう。 (びっくりした……)  エミリオは心臓の鼓動が落ち着くまで、カウンターの椅子に座って呼吸を整えようとした。

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