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第55話 迫る

 久しぶりに会ったヴァルド神父と話していると、すべて真実を話してしまいたくなる。大切な人ができたこと、自分は今とても幸せなのだと、父のように思っているこの人には話すべきなのではないかと思えてくる。  しかしそれをしたらきっと混乱させてしまうだろうし、いくら育ての親とはいえ、受け入れてもらえるかどうか不安で話すことができなかった。  これから先、ジェスとの関係を隠し続けるならずっとこの不安を抱えていかなければならないのか。そう思うとエミリオの表情は微かに暗くなり、微笑みはどこか寂しげになった。 「久しぶりにお前に会えてよかった。いつも心配していたんだよ。エミリオは真面目だから、無理をしていないかと思ってね」 「毎日が穏やかで、元気にやっています。神父様こそ、お身体は大事になさってください」  自らを偽って、ニセモノの笑顔を神父に向ける。エミリオは申し訳なくて神父の目をまっすぐ見つめられなかった。 「しんぷさま……?」  不意に背後のドアが開かれ、小さな男の子が聖堂に入ってきた。ブルーの小さなブランケットを握りしめて、不安そうな顔をしている。 「ロンシェ。どうしたんだい。また怖い夢を見たのかな?」  名前を呼ばれた男の子は、泣きそうになりながら小さく頷いた。かわいそうに、怖い夢を見て起きてしまったのだろう。神父は立ち上がってその子を抱き上げると、エミリオに向き直った。 「すまない、エミリオ。この子を寝かしつけてくるよ」 「はい。遅くにお邪魔しました」 「来てくれてありがとう。顔が見れて嬉しかった。またいつでもおいで」  男の子の背中をトントンと優しく撫でてやりながら、神父はドアを開けて教会を後にした。  静かな聖堂内は、火が灯されたキャンドルで照らし出されている。久しくミサに参加していないエミリオは、祈りを捧げようと誰もいない聖堂内で手を組んだ。目を閉じて、幼い頃に教わった“聖なる母への祈り”を心の中で唱える。こうしていると、心がどんどん穏やかになっていくから不思議だ。 (――そろそろ帰らないと)  祈りを捧げたエミリオは、立ち上がって教会から外へ出た。 ***  暗い夜道はひどく不安になる。町の中だから獣が出るようなことはないけれど、夜盗に襲われて命を落とした両親のことを思うと足がすくんだ。 (ランプを借りてくればよかったかな……)  月明かりしかない夜道は風が吹き抜ける音だけが聞こえている。  ――いや、それだけではない。 (……っ、なに? 今、何か音が……)  背後から地面を踏み締める音が聞こえた。獣なんかじゃない。これは、人の足音だ。一人分の足音が近づいてくる。背後に迫る音。エミリオは走り出したかったが、恐怖で身がすくんで足がうまく動かなかった。

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