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第62話 まどろみ

 神父が子どもたちを連れて散歩に出かけている間、エミリオはベッドに横になって目を閉じていた。心を落ち着かせるため、呼吸に集中して昨日あった出来事を思い出さないようにする。  このまま眠れたら不安にとらわれることなく恐怖に怯えずに済むけれど、エミリオの心はざわついていて、簡単に眠れそうになかった。 (ジェスさんに会いたいな……抱きしめてもらいたい……)  毛布を抱きしめて、エミリオは壁の方を向いた。誰もいない家の中はとても静かで、ひとりぼっちの孤独をひしひしと感じさせられる。  そんな時に考えるのは、やはりジェスのことだった。  ウィズリーのあの行為を話すべきか否か。考えれば考えるほど頭が重くなってくる。 (だめだ、やめよう……こんなこと考えても仕方ないや)  清潔なシーツをつま先でなぞれば、ひんやりとしていて心地いい。その肌触りに癒されていると、窓の外から鳥のさえずりが聞こえてきた。森に程近いこの家では、自然の音がエミリオの自宅にいるよりもはっきりと聞こえる。そっと目を開けて窓のほうに目をやり、差し込んでくる太陽の光に目を細めた。 (……綺麗だなぁ)  夜の闇は怖い。闇は大切なものを奪ってしまう。一緒に過ごした記憶はないけれど、エミリオの両親も闇夜に命を奪われた。そして今度は自分が、信じていた人に襲われてしまった。  夜は怖い。人も、怖い。エミリオは縮こまって小さく肩を震わせた。 (神父様は……みんなはまだ戻らないのかな)  誰かと一緒にいたほうが気が紛れる。子どもたちの遊び相手でも、なんでもいいから誰かと一緒にいたかった。安心できる誰かに、寄り添っていて欲しかった。  本当はジェスにそばにいてもらえたら一番よかったけれど。今はジェスの家に行く力も出ない。  ただ静かに、鳥の声を聞いていることしかできそうになかった。 ***  慌ただしい足音が聞こえ、エミリオはふっと目を開けた。  身体が少しだるい。もしかして眠っていたのだろうか。  心地よい風に頬を撫でられ、窓のほうを向くと閉じられていたはずの窓が開いていた。 「ん……」  足音は子どもたちのものだった。ぱたぱたと走り回って、楽しそうにはしゃいでいる。 「こらこら、寝ている人がいるときは静かにしなさい」 「はーい」  神父の声も聞こえてきて、エミリオは心がほっと落ち着くのを感じた。  同時に、こんな昼間に横になっていることに罪悪感が生まれ、すぐ起きようかと思ったのだが、身体のだるさに負けてそのままベッドに沈んでしまった。  いつもなら、寝て起きたら多少の疲労は取れているはずなのに。寝返りを打つのも気だるくてため息をついてしまった。 「……変なの」  それだけ心に受けたダメージが大きかったということなのだろうか。身体は強いほうではないと思っていたが、ここまで貧弱だとも思っていなかった。今まで図書館を休館してまで休んだことはほとんどなかったし、少し体調を崩してもしっかり食べてよく眠れば次の日には元気を取り戻せた。  それなのに、今はだめだ。起き上がる気力さえ湧いてこない。  ジェスに会いたいと思っていたけれど、こんな状態の自分を見せるのは情けなくてやっぱり嫌だ。 「これからどうしたらいいんだろう……」  思考がぐちゃぐちゃになって、気分もどんどん落ち込んでくる。 (……何も考えたくないな)  最終的に出した答えはそれだった。逃げているのかもしれないけれど、心を守るためと考えたら、そうするしか方法はなかった。

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